丹後ネクタイ「KUSKA」、サビル・ロウの老舗へ(坪内隆夫)

2020/01/09 06:00 更新


HUNTSMANのネクタイは1本1本シリアル番号が記入されています

17年1月のPITTI UOMOから、海外への販売のお手伝いをしている京都・丹後のネクタイブランド「KUSKA」が、ロンドン サビル•ロウ通りにある英国王室御用達の老舗テーラー、HUNTSMANへの販売をスタートさせました。

KUSKAは元々1936年創業の着物地、丹後縮緬の機屋さんで、10年から、昔ながらの織り業で、伝統、ファッション、芸術の3つを融合させるということをコンセプトにブランドを立ち上げました。その中心アイテムはネクタイで、機織りを含めた全ての工程が手作業で行われています。全て手作業のネクタイの量産をするメーカーは他に例を見ません。一人の職人で1日ネクタイ3本分の生地しか織れません。

これまでも日本ブランドの海外での販売のお手伝いをしてきましたが、海外の多くのバイヤーは、日本の技術の高さやデザインの良さを知っており、日本製品を望む半面、あまり高価な商品は買えないというケースが多く、残念ながら実際の商売に結びつけることは簡単ではありません。

日本の商品をヨーロッパで販売すると、高い送料がかかり、消費税も高く、お店の取り分も多いので、実際の店頭価格はかなり高くなり、日本の上代の倍ほどの価格になります。

あまりファッションにお金を使わないヨーロッパにおいて、値段の高い商品を販売しようと思っても、それほど大きなマーケットはありませんし、ヨーロッパ市場にあった価格設定をしようとすると、どうしても商品の品質が落ち、ヨーロッパの人が求める日本品質ではなくなってしまい、中途半端に高い商品になってしまいます。そうなると魅力のある日本製商品としての価値を出せません。

その中、そのブランドだけにしかできない特別な技術を使ったり、個性のあるオンリーワンの商品を作ることによって、価格が高くなっても、他にはないニッチなゾーンを狙った商品を提供することで、ビジネスを成功させることはできると思っています。このハンドメイドのネクタイのKUSKAはまさしくそれに属するブランドです。

KUSKAは17年1月からPITTI UOMOに継続して出展し、素材の質のわかる多くのバイヤーや、特に生地メーカーの経営者達から素材の質の高さやその風合いを評価されてきました。

機械織りの生地は速いスピードで織られるために生地にかかるテンションが高く、硬く平面に近い生地に仕上がりますが、KUSKAの生地は手で織るために生地にかかるテンションが低く、素材に厚みが出てきて、織り柄の凹凸もはっきり出てきます。3ディメンションの生地が出来上がるわけです。

価格的に高価になるため、販売に結びつけるのはなかなか簡単なことではありませんが、KUSKAの商品に対しては自信はあります。商品を信じることさえできれば、販売するに当たって怖いものはありません。また、販売する上で何かバイヤーが興味を持てるようなキーワードが見つけられるコレクション、オンリーワンの商品を作っているコレクションはバイヤーの興味をそそります。

KUSKAのキーワードは、「手織り」「市場に出回る数が決まっている」「奥行きのある3ディメンションの生地」です。きちんとした商品説明で、その商品の良さもわかってもらえます。しかし、これと言った特徴が無く、ただ単に質が高く価格の高い商品は海外では販売に繋げにくいです。

ロンドン サビル•ロウ通りにある英国王室御用達の老舗テーラーHUNTSMAN。アトリエでは、こんな所でもがんばっている日本人が数人いました

...ということで、どうせならPITTI UOMOに出展するだけで無く、世界でも最もレベルの高いところに販売していこうと、歴史があり世界的に有名なテーラーが多く集まるロンドン サビル•ロウ通りに営業に行きました。

ロンドンのサビル•ロウ通り、この通りはご存じの通り日本の背広(セビロ)に由来した通りの名前であるように、今でも多くの老舗のテーラーショップが集まる通りです。その中の一つ英国王室御用達、老舗テーラーHUNTSMANにもお邪魔し、クリエーティブディレクターのCAREYさんにPITTI UOMOのKUSKAブースに来ていただき、今回の販売に繋がりました。

このHUNTSMANは、映画「KINGSMAN」の舞台にもなったお店で、かなり知名度も高いお店です。これをきっかけに海外の他のお店にも入っていけるよう、KUSKAブランドと構想を練っています。

このKUSKAブランドのお手伝いをして、私が特に感心していることは社長の楠の我慢強さと物作りに対するブレの無さです。

海外での販売は上記にもある様にそんなにすぐにうまくいくことはありません。日本では最近あまりファッションにお金を使わなくなっているとよく言われますが、それは海外でも同じこと、このブランドで行けると判断したら、自分のブランドを信じてブレず長い目で見て挑戦してゆくことがとても大切だと思っています。


つぼうちたかお 東京モード学園デザイン学部卒業後渡英、1年後に渡伊。デザイナーとして活動をはじめ、ミラノにてオーダーショプ「TAKAO MILANO」をオープン。04年2月から07年9月まで年に2度、ミラノ市の協賛を得て、ミラノファッションウィーク開催中に新人デザイナーを中心とした展示会UPSIDE MILANOを主催。その後、ミラノのショールーム、ファッションガイドブックへのコンサルタントを行い、12年1月のPITTI UOMOから日本のメンズブランドのヨーロッパでのセールスプロモートをするプロジェクトJAY PROJECTを開始する



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