アクセサリーブランド「テトメ」デザイナーの近藤宏美さんが活動の幅を広げている。美大で絵を学んだのち、ブランドを立ち上げた近藤さんは、「アクセサリー作りも美術をやっている感覚」で、自身の美学に貫かれた製品を生み出す。6月には名古屋三越栄店のミレニアル世代向けの期間限定の売り場「オブジェクト・イン・ザ・ミラー」のディレクションを任され、評判を呼んだ。
(森田桃子)
ひかれた理由に納得
近藤さんがアクセサリーを作り始めたのは6年前。もともと画家を志していたが、ある日「なぜ絵を描くのか」分からなくなった。今まで大切にしてきたものが魅力的に感じられなくなった時、唯一心ひかれたのが、絵のモチーフとして使っていた〝石〟だった。そこで、石を使ったアクセサリーを探しはじめ、自ら作り始めたのがブランドの原点だ。
当初販売するつもりはなかったが、インスタグラムを通じて写真を上げるうち、欲しいという声が強くなり販売を始めた。「自分のやりたいことと、みんなが喜ぶもののクロスポイントがアクセサリーだった。誰かの心に刺さるものを作りたい」。現在は夫の康太さんと協力して製作、販売している。
人気商品はマグマリング(2万~2万5000円)だ。これまで約200点を作成しており、一つひとつ形が変わる一点物。3年前にブランドを立ち上げてから、すでに150個以上売れている。有機的で力強い形は、その名の通りマグマを模したもので、奇麗な宝石ができるまでの経緯にはマグマの力が不可欠なことから着想した。
顧客層は20代、30代の女性が8割を占めるが、最近は男性客も増えてきた。近藤さんが目指すのはそうした「ただ美しいだけでなく、触れたらけがをしそうな、危うい魅力を持つ」アクセサリー。禍々(まがまが)しくていびつなものと、美しく品格の宿るものの共存がテーマだ。
近藤さん自身がそのモチーフの背景や歴史を調べ、なぜそれを美しいと思ったかを理解してから製作するのも特徴だ。博物館で見た骨角器をテーマにしたピアス(1万8000円)や、よりモダンにリメイクしたインディアンジュエリーなど、見た目にひかれ手に取ったお客さんが、作品に込められた背景や思いを知り「ひかれた理由」に納得する。そうしたファンが少しずつ増え、フルオーダーを依頼する顧客もいる。
互いの価値を高める
名古屋三越栄店が6月に婦人服フロアで開催したミレニアル世代向けの期間限定売り場、オブジェクト・イン・ザ・ミラーではディレクターを任された。同イベントは同店の若手社員が企画したもの。ミレニアル世代は「人に共感したり、影響されたりすること」が購買動機になることから、影響力のある一人のディレクターを軸に売り場を作った。ECと期間限定店を中心に活動してきた近藤さんは、期間限定店を通じ、著名なブランドのデザイナーや店のオーナーとのつながりがある。そうした人脈と影響力を見込んだ企画担当者から声がかかった。
売り場はテトメのジュエリーのほか、近藤さんの愛用する4ブランドと名古屋三越栄店の商品をミックス。ディスプレーは現代アーティストの玉山拓郎さんに依頼し、独自の世界を作り出した。「各ブランドにはイメージだけを伝え、自由に表現してもらうことで、自分の想像を超える意外性のある売り場ができた」。
店頭の反応も良く、他社からディレクションの依頼もきた。7月には駆け出しのアーティストに声をかけ、期間限定イベントを主催した。同じ美学を持つデザイナーやアーティストと売り場を作ることで、互いの価値や認知度を高めている。