東レは来期(24年3月期)からスタートする次の中期経営課題について、「さまざまな社会課題に対し、革新技術や先端材料で貢献したい。具体的には『サステナビリティ・ビジョン』で掲げる30年の課題達成へカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに力を入れる」(日覺昭廣社長)方針。また、最近発生した品質不正問題を受け、改めてコンプライアンス意識を徹底させる。
(中村恵生)
5月25日にオンライン会見を開き、日覺社長や三木憲一郎常務執行役員繊維事業本部長らが現状や方針について答えた。次期中期は、「10年先の社会の方向を考え、目先の3年で取り組む課題を抽出する」構え。前提として「この間、米中摩擦やコロナ禍、異常気象、ウクライナ戦争など不可逆的な変化が起こっているのではないか。その中で安心・安全、サステイナブル(持続可能な)の社会を求めるニーズが高まっている」とし、素材メーカーとしてこういった課題に応えていく。
繊維事業については、「市場環境は厳しいが、安心・安全やサステイナブル、サーキュラーエコノミーに関する繊維素材を積極拡大する」(三木繊維事業本部長)とし、設備投資を含む拡大戦略を次の中期で具体化する。
同時に、「収益力の回復・向上を一番の課題と認識している」。複合紡糸技術「ナノデザイン」やサステイナブル素材による差別化を徹底し、定番品でもこれを活用して付加価値を上げていく考え。また、サプライチェーンの深化も進め、例えばテキスタイル拠点の横で縫製を行うなど、リードタイム短縮と物流コスト削減でより強じん化、高度化する。
この間、構造改革に取り組んできたポリエステル・綿混事業は、東南アジア4拠点のベストミックスを追求しているが、ドレスシャツ市場の縮小などコロナ禍を契機にした市場の変化も見極めていく。また、この間のサプライチェーンの混乱も踏まえ、長繊維織物は、これまで柱だった中国のTSDに加え、東南アジアやインドの拠点化を次の中期で検討する。
品質問題については、樹脂の米UL認証商品で実際とは異なる試験用サンプルを作成・提出していたほか、登録時と異なる物を製造販売する不適正行為が長期間行われていたことが判明した。
「再発防止策を徹底し、有識者調査委員会の報告に基づき、役員一丸となってステークホルダーの信頼回復に努める。次の中期でも『品質がブランドを作る』との認識を定義し、品質第一で取り組みたい」構え。