東都製靴工業協同組合は11月27日、東京・浅草橋で第6回目の合同就職セミナーを開いた。今年から7月にも行い、年2回開催にしてより多くの人材とのコミュニケーションを図っている。特別講演には、約20年前に浅草の靴メーカーや靴卸で現場を経験をした、デザイナーの三原康裕さんが登壇し、靴業界で働き続ける魅力と厳しさの両面について語った。
今回は合計13社が参加。一部の企業では7月に会った新卒者との再面談を行ったほか、採用を決めたところもある。ただ、志望する職の多くはデザイナーや企画で、製造部門を希望する若者は少ない。
「10年、20年と経験を積み、技術を継承する人材」(田中正雄人材育成担当理事)が見つからないことが、出展社共通の課題だ。デザイン性の高い婦人靴が得意なアポロは「職人頼りではなく、チームを組織して生産規模を大きくしたい」と考えており、長期的な視点で人材育成に力を入れている。
また、この間の国産回帰でOEM(相手先ブランドによる生産)の依頼が増えつつあり、「即戦力が欲しい」企業も多い。そのため、新卒者だけでなく、中途者も同セミナーの対象にして募集を広く呼びかけた。
三原さんの講演では、在学中に浅草の靴メーカーに飛び込み、手伝いをする中で職人に頼んで靴作りを教えてもらったこと、その後婦人靴卸に入り、靴デザイナーになる機会を作り出したことなどを紹介。自分が接してきた靴業界の作り手にも触れ、「一足の靴を一人で作り上げるというよりも、職人という職業。かつては、いい給料がもらえて職に就いたのであって、憧れはなかったと思う。食べていくために貪欲(どんよく)に覚えていかざるを得なかった」と多くの若手が抱くイメージとのギャップも率直に説明した。
同時に、「そういった職人もあと10年もしたらいなくなって業界は変わる。だからこそ、自分がうって変わるぐらいの気持ちでやるべきだし、靴業界にはそのチャンスがある。IT(情報技術)系の職は人気があってもチャンスじゃない。ほとんどの人は社長にはなれない。靴作りが好きなら、まずはお金が稼げるところまで頑張ってみようと思ってほしい。やり続けることが重要」と励ましの言葉を贈った。