ツイッターでは時々、何十年も前に個人が撮影・録画していた懐かしの映像が投稿される。当時の人々の生活やメディアのあり方がうかがえる、貴重な資料だ。しかし、ある日のタイムラインに偶然流れてきた映像には、何か違和感があった。
解像度の低さと、ややくぐもった音声、アナウンサーの言葉遣いなどから80年代ごろのニュースに思えた。しかし、カメラに映る人物はファッションこそいかにも昭和のサラリーマンなものの、最新の3D・CGソフトを操作していたのだ。調べてみたところ、どうやら今年作られた、あえて古く見えるよう作り込む「アナクロ」というジャンルの映像らしい。
アナクロ映像のクリエイターは意外といるようで、10~20代の若い人が目立つ。最近の化粧品をモチーフにバブル期のCM風に作り込むなど思い思いの発想で表現活動をしている。彼らに共通するのは、身の回りにある最新の物事を、かつての価値観で再解釈すること。単なるレトロ趣味にとどまらない洞察がある。
世代をはじめ様々な属性の違いから生じる価値観のギャップが、ハラスメントなど解消しがたい問題として表面化している昨今。当時を知らない若い世代があえて時代遅れ(アナクロ)を実験しているように、上の世代やマジョリティーも、今どきの価値観や違う属性の人の視点で身の回りを再解釈してみてほしい。
- (稜)