今季のNHK連続テレビ小説『らんまん』は植物学者の牧野富太郎氏がモデル。彼が幼少期、番頭さんが大事にしていた懐中時計を、仕組みを知るためにバラバラに分解するシーンがあり、話題になった。実話だという。
何かに熱中すると、その仕組みを知りたいと思うあまり、対象を修復不可能にしてしまうことがある。あるハンティングウェアのデザイナーは、学校に通わず、独学で服作りを学んだ。教科書は、好きでコレクションしていた30年代以降のハンティングジャケットやフィッシングジャケット。機能を使い手自らが盛り込んだホームメイドの一点物も多かったが、それらを解体し、服の仕組みを学んだ。
コレクションはほとんど残らなかったが、その学びは斬新なオリジナルウェアに結実した。今までにない作りでも破綻しないのはきっと、歴代のコレクションの知恵が詰まっているからだ。バラバラになった時計の針は動かないが、作り手の体内に受け継がれ、新たな時を刻んでいる。
(桃)