「体験価値」。ここ数年の取材での頻出ワードだ。特によく耳ににするのは、メンズ分野で急拡大しているオーダーメイドのスーツやネクタイ、レザーグッズについての取材時。好みのデザインや体にフィットしたサイズの商品が手に入ることに加えて、仕様を決める際のスタッフとの会話や出来上がりを待つワクワク感は、確かに体験価値だと言える。
異業種はさらに進んでいる。先日、あるイベントで農家が自身の栽培したホップを持ち込み、その場で砕いてビールへ入れ、香りを楽しみながら飲むスタイルを紹介していた。初めて触るホップの感触と不思議な香り、豊かさを増すビールのうまみ。新鮮な体験をさせてもらった。
ファッション分野でも応用が利くはずだ。例えば、オーダースーツの生地だけでなく、わたや原毛も一緒に展示し、生産者の解説を聞く。様々なアイデアが頭を駆け巡った。私たちの業界でも、体験価値はまだ広がる余地がある。
それにしても記者は飲むとすぐに顔に出る。澄ました顔で写真に写る、一緒に試飲した取材相手がうらやましい。
(夏)