《視点》あるニッター社長の話

2024/01/11 06:23 更新


 「事業を誰かに譲ろうと思っている」。ある国産ニッターの社長からそんなことを打ち明けられた。そのニッターは社長を先頭に、専門的な技術、知見による優れた意匠表現を強みとする。特に緻密(ちみつ)な計算に基づいて編み立てる成型物が得意。

 社長は数年前から経営を退く意向を持ち、事業の譲渡先を探し始めていたという。譲渡を検討しているのは編み立て・縫製の自社工場と従業員。理由を尋ねると、製造現場の第一線にも立ち続けてきたが、「社長業との両立が難しくなってきた」という。ネガティブな話だけではなく、「新しいことも始めてみたい」と前向きだった。

 同社はレディスファッションが主力だが、ほかにスクールセーターのOEM(相手先ブランドによる生産)の需要も開拓、コロナ下の難局をしのいだ。現在、無借金経営だという。今夏には安定供給のために成型編み機を増設する。先を見据えた事業基盤も整えてきた。社長としては、これまで大事に磨き続けてきた技術、人材を保った状態で、丁寧に引き継ぎたいという気持ちがあるのだろう。引き継いだ後も助言は惜しまないという。良い出会いがあることを願っている。

(嗣)



この記事に関連する記事