《視点》山ちゃん

2024/02/28 06:23 更新


 週末の場外馬券場で見覚えのない男が近づいてきた。親しげに声をかけてくる。「やあ久しぶり。山ちゃん元気?」と。

 山田、山下、山口、山岡…。どの山ちゃんだろう。上司の山ちゃんかもしれない。男が誰なのか思い出せないが、「はい。元気でやってます」。「山ちゃん」の一言で警戒を少し解いた。その瞬間を詐欺師は見逃さない。「内緒だけどすごい情報があって」。財布を開かせようと言葉巧みに甘く誘ってくる。

 コンビニの店長が、顔なじみの高齢男性に声をかけた。電子マネーなど縁遠いはずなのに、高額なプリペイドカードを買いに来た。海外の宝くじに当たったと連絡があり、受け取るには手数料が必要だそうだ。「ワシはオレオレ詐欺などに引っかからん」が口ぐせだが、どうみても特殊詐欺にはめられている。

 高額な当選金や多額の還付金、覚えのない料金請求など普通ならありえない話も、人によっては固めていた警戒心がわずかにほころぶ一打になる。

 まもなく新年度。新しい生活が始まり、慣れない環境に心はガードを固めるが、思わぬパンチがガードを崩すこともある。

(原)



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