ある画家の展覧会に行った。知らない画家だったが、彼の絵は知っていることに気付いた。何度か通りがかったことのあるビルの壁画。あるいは地下鉄のホームに、彼に師事した弟子による壁画が描かれている。パブリックアートとして、その作風に何度も出合っていた。
意識すると、街は意外と壁画や彫刻、モニュメントであふれている。4月に名古屋栄で再スタートを切った新・中日ビル。旧ビルの天井にあった美しい青のモザイク画は、矢橋六郎の作品だ。彼の作品は、名古屋の地下通路にあるモザイク壁画をはじめ全国にある。名前は知らずとも親しんでいる人も多いはず。天井画は市民の後押しで新ビルに受け継がれた。
一方、姿を消した作品もある。JR名古屋駅にあった「飛翔(ひしょう)」という円錐(えんすい)型のモニュメントは22年、駅前再整備のため撤去された。移設予定だったが頓挫し、市有地に保管されたままだ。
作者の認知度は低くても、市民に根付く公共空間の芸術の価値をどう判断し、保存していくか。慎重な判断が求められる。
(桃)