「ユウビカワノ」デザイナー河野有実さん 下着と服の境界を超える“クロージェリー”

2022/09/26 11:00 更新


「身体美やランジェリーが持つジェンダーロールについて考えながら製作する」と河野さん

 ランジェリーブランド「ユウビカワノ」デザイナーの河野有実さんは、服に負けないデザイン性とコンセプトのランジェリーで、注目されている。提案するのは、下着と服の境界を超える〝クロージェリー〟(クローズとランジェリーからの造語)。ランジェリーのセクシャルなイメージや、肌を見せることへの抵抗感を減らし、ランジェリーの新たな可能性を提示する。

(森田桃子)

■境界を考えさせる

 同ブランドのランジェリーは、補正にとらわれず、アシンメトリー、穴、線などを取り入れ、体を美しく見せるデザインが魅力だ。ベースにあるのは、アート活動で行っていたボディーペインティング。「体に沿って線を引き、絵を描いている感覚」でランジェリーを製作し、体の特徴を美しく際立たせる。インナーとして着ても「自信をもらえる」と評判だ。シャツの上からレイヤードしたり、トップの内側からのぞかせたりして見せてもかっこよく、組み合わせ次第で様々な着こなしが楽しめる。

 ブランド立ち上げのきっかけは、ロンドンのカルチャーに触れたこと。ロンドン芸術大学への進学をきっかけに、渡英。男女の理想像にとらわれない自由さや奔放(ほんぽう)なファッション、ランジェリーのとりこになった。学問の傍ら、著名なランジェリーブランドでデザインアシスタントを2年半務め、「日本でもランジェリーに対する抵抗感を減らしたい」と帰国。「ランジェリーも洋服やアクセサリーと同じように、ファッションアイテムの一つとして楽しめるものにしたい」との思いは強く、19年にランジェリーブランド、ユウビカワノを始動した。

 「ランジェリーというと、セクシャルなイメージがつきまとう。洋服とランジェリーの間、と提案することで手に取りやすくなるのでは」との思いから〝クロージェリー〟として打ち出す。洋服とランジェリーをはじめとして、体形や性別、人種など、「あらゆる境界について考えさせる」ブランドでありたいとしている。

フロントが真っ直ぐおへそまで空いた「イシュタルボディー」が人気。好きなランジェリーを合わせられる

■固定観念を覆す

 初めて行ったコレクションは19年の「ア・パート・オブ・ユア・ボディ」だ。デザイナー自身が経験した手術の不安が着想となったシリーズ。子宮の手術を通じて、自分が女性であることを突き付けられた経験や、体が切り取られる不安を作品に落とし込んだ。体形は多様だが、「どのような体も表情も愛嬌(あいきょう)のあるもの」という思いから、乳がんの手術を受けた人、入れ墨を入れた人など体に個性のあるモデルを起用し、片側に穴のあいたアシンメトリーのブラやショーツなどを作った。

 従来の美の理想像や「左右対称が美しい」といった固定観念を覆し、着用したモデルや客から「身に着けることで勇気が出る。治療のような感覚」と声が上がった。

 一点一点手作業で作り上げる芸術性も魅力だ。ランジェリーのストラップを格子状に織ったシリーズ「アジロ」コレクションは、京都の網代壁から着想を得た手の込んだ作品。製作の過程をインスタグラムのストーリーでも発信し、芸術的観点から興味を持つ人も増えた。男性のクリエイターからの関心も高まっている。「セクシーさはもちろん、ランジェリーの魅力。一方で、性的コンテンツと判断され、ギャラリーから展示を断られることもある。セクシーさを打ち消すのではなく、ランジェリー自身の芸術性を高め、少しずつ捉え方を変えてもらう。見た人や着た人が少しでもランジェリーの可能性や役割について考えるきっかけになれば」と語る。ECと期間限定店を中心に販売している。

ストラップを格子状に織ったシリーズ「アジロ」


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