21年春夏パリ・コレクション リアルショーはポジティブなソリューション

2020/10/05 06:30 更新


ケンゾー

都会の田園風景 ケンゾー

 21年春夏パリ・コレクションは、1日10ブランド前後のラインナップのうち、3ブランド前後がリアルショーを開いている。新型コロナウイルス感染防止措置が厳しさを増すパリで、限られた条件下で行われるリアルショーは、ブランドの考え方やスタイルを伝えるポジティブなソリューションとなっている。モデルの肌の色や年齢、体形は多様性が広がり、ヘアメイクはナチュラルに。会場は、ファッションを見る喜びでコミュニティーのような雰囲気に包まれている。

(パリ=松井孝予通信員、写真=大原広和)

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 ケンゾーは、清らかな空気に包まれたバラの庭園を会場に、都会に田園風景を描いたようなコレクションを披露した。前シーズンからアーティスティックディレクターを務めるフェリベ・オリヴェイラ・バティスタによる初の春夏は、コロナ禍からの再出発に願いをかけた夢と希望がコンセプト。今を生きる人々の心のように、多様性、変化、コントラストのある服で表現した。フラワープリントのミニドレスに、ふわっとしたパーカ。養蜂家を蜂から保護するベールのように、全身を優しくバリアするオーガンディの帽子を重ねる。ブランドを象徴する花を守る蜜蜂からの発想だ。アーカイブから選んだモチーフを、デジタル効果でデリケートにはかなく変化させた。メンズラインはマチのあるポケットやポシェットをアクセサリーのようにたくさん着けたワードローブ。すとんとしたシルエット、都会的なセンスをたたえた流れが続く。

 無垢(むく)な空間に鼓動のように響き続ける太鼓の音が、招待客を瞑想に導いていく。「音を聴く、その響きに身を任せる」。ゴシェールをデザインするドイツ人デザイナー、マリークリスティーヌ・スタッツは、コロナ禍の経験からコレクションを着想した。スピリッツなセレモニーの冒頭を飾るのは、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンを彷彿(ほうふつ)させるオーバーサイズのテーラードスーツ。ブランドのアイコニックとなったこのシルエットは、前シーズンのモノクロにアースカラーやブルーを加え、色の視覚効果でより大きく見せ、女性の強さを強調する。それと対照的なメンズラインではマーク・ロスコの絵画のようなグラデーションのシンプルなプルオーバーが目を引いた。

ケンゾー
ケンゾー

初日は若手ずらり デジタルでアイデンティティー伝える

 毎シーズン、若手が揃うパリ初日。今シーズンは、いつもより多く6人の若手がデジタルで21年春夏物を披露した。動画のなかで若手が効果的に使ったのは、光や影、風といった自然現象。服のシルエットや動きをとらえやすい環境が選ばれた。幅広い人に配信できるデジタルの特性を生かして、ブランドのアイデンティティーやイメージを伝えようとする傾向が目立つ。

 マメ・クロゴウチは、淡い光と影が重なりあうはかなく繊細なイメージを伝える。着目したのは窓。古い日本家屋に見るようなすりガラスの格子の窓に、白いレースのドレスがぼんやり映る。哀愁のある静かな時間を動画にした。ドレスを形作るのは、カーテンに使われているようなフラットなレースやシルクコットン。柔らかいエクリュ、日に焼けた黄味がかった白、淡く透ける生地も多い。すとんとしたドレスはカーテンをまとったようにギャザーを描き、身頃には、カーテンを両サイドに寄せて留めたようなギャザーやドレープが飾られる。花の刺繍に派手さはなく、控え目な日常が感じられる。「自粛期間中、家の中で過ごす日が続くなか、中から外を見る機会が増えました。在宅中の心持ちは穏やかで、ゆっくりとふくよかな物作りの時間を過ごせた。いつもは旅から着想しますが、家の中で自分の内側を旅する時間になりました」とデザイナー。

マメ・クロゴウチ

 セシリー・バンセンは、海辺の荒涼とした丘で愛らしいセシリーのスタイルを見せた。冒頭はブランドを象徴する白のルック。きゃしゃなレースのドレスやパフスリーブのコートなど、どれも透け感があって、布の重なりが陰影を作る。ぴったりフィットのトップには繊細なビュスティエ。背中や肩が開いているものも多い。ピュアな白に続いて、黒やピンクのワンカラースタイル。最後にモデルの少女たちは大きな鏡の中に消えていく。ファンタジックな後味だ。

セシリー・バンセン

 ウェールズ・ボナーは、馬のいる丘や水辺を舞台に黒人の青年がたたずむ様子を動画に収めた。身にまとうのはストライプのシャツやTシャツに、ぴたっとしたカーディガンやショーツ、レトロなスポーツアイテム。カラフルな色やグラフィカルなストライプからはほんのりアフリカンスピリットが漂う。ボザムを切り替えたカフタンのルックも。ヨーロッパとアフリカの要素を掛け合わせる自身のスタイルをシンプルに表現した。

ウェールズ・ボナー

 ジョージア発のシチュエーショニストは、市井の人々が行き交う町の中で、テーラーリングを軸にした構築的な服を見せた。雑多な空間と直線的な服のコントラストで、ブランドのシャープなイメージを強調する。かっちりとしたフォルムのショートジャケットに、鮮やかなブルーやピンクのパンツ。メンズもレディスもきっちりパットを入れた肩のラインが特徴。ノーカラーや背中の開きが抜け感をプラスする。街の洋品店にありそうな懐かしい花柄だけが街とシンクロする。

SRスタジオ・LA.CA.

 SRスタジオ・LA.CA.(スターリングルビースタジオ・LA.CA)は、アメリカのマルチメディアアーティストのスターリングルビーがアート制作活動の一環でスタートしたユニセックスのアパレルブランド。幅広いアートワークを行うほか、これまでにラフ・シモンズと手掛けたプロジェクトでも知られる。デザインのベースは、アメリカ西海岸に根付くデニム文化。動画のインスタレーションでは米国旗を彷彿させる加工デニムを体にまとった。

SRスタジオ・LA.CA.

(青木規子、写真はブランド提供)



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