激戦区の30代女性向けマーケットに、満たされていない“隙間"を見いだし、ブランドや売り場を作る動きが活発化している。この世代は働く女性、いわゆるキャリアだが、ファッション経験は多様で、一筋縄ではいかない嗜好(しこう)を持つ。ファストファッションでも、ハイブランドでも、既存のキャリアブランドでもない。彼女たちが、ちょっと憧れ、なおかつ手の届く服。日本のコンテンポラリーともいえるブランドと売り場ができれば、市場が花開く可能性はある。
(続きは繊研新聞で=お求めはこちら)
「特殊な世代」と分析
12月、多くの客でにぎわう週末の阪急うめだ本店。4階の「うめはんジェンヌ」で買い物をしていた女性は、「可愛らしくてもイヤだし、ふけてみえるのもイヤ。そんな気持ちに共感してくれるブランドが欲しい」と話した。見ていたのは「フレイアイディー」。ジェンヌの中で売り上げを伸ばしているブランドの一つだ。
客層のヤマは25~30歳で、次いで30代が続く。売り場を担当する武藤千香子ヤングアダルト婦人服商品部長は、彼女たちを「特殊なファッション経験を経た世代」と分析する。「マルキュー系、青文字系、赤文字系ブームを通り、そのカジュアル感やエキサイト感が好き。ただ、大人になった今はクオリティーも気になるし、異性ウケはいらない。この感性に応える売り場がなかった」。
うめはんジェンヌは「次世代キャリア」と位置づける彼女たちを狙った。好調ブランドは、フレイアイディー、「エンフォルド」「ナイン」など。支持される理由は「ストリート、カジュアルのトレンドを微妙なさじ加減で入れながら、最終的に“きれいめ”に仕上がること」だ。
彼女たちは3階の自主編集売り場で「3.1フィリップ・リム」「アレキサンダー・ワン」などのコンテンポラリーブランドと“ジェンヌ”を買い回る。日常的にSNS(交流サイト)を使い、グローバルなトレンドには敏感。だが、高価なブランドはたまにしか買えない。欲求と現実のギャップを埋めるリアルな服が、ジェンヌにあるブランド群だ。彼女たちの感覚をつかむ日本のブランドは「まだ、塊としては見えづらいかもしれない。だが、ここを突き抜ければムーブメントになる」。
二極化はつまらない
大手セレクトショップもこのニーズに反応し、新ブランドを立ち上げる。
「海外コンテンポラリーブランドが売れているのに、国内でそのゾーンを取れるモード感のあるブランドがない。それは単なるニッチではない。大きな穴だ」。今春ユナイテッドアローズがスタートする婦人服主力の新ブランド「アストラット」の東谷太クリエーティブディレクターはこう見る。
「若い頃にマルキューで育った今の30代は、可愛いさやフェミニンさではなく、シャープな物を求めている。彼女たちが好む海外コンテンポラリーブランドと買い回れるドメスティックブランドがない」ことに注目した。アストラットは、モードを軸にクラシックやストリートなどをミックスし、シーズンごとのトレンド感を出す。海外ブランドに引けを取らない素材、縫製レベルで、価格帯も「頑張れば手が届く」範囲に設定した。
「ファストファッションとメゾンブランドの二極化ではつまらない。その中間で、もう一度ブランドビジネスを仕掛けるほうが今は面白い」という。ニッチではあるが、「最初からマスマーケットを視野に入れると、マスにはならない」。
昨年立ち上がったワールドの「ジンジャーエール」や、パルの「ロベム」なども30代を狙うブランドだ。新ブランドの開発は今春夏も続き、新たな売り場開発の気配も出ている。リアルさのある日本ならではのコンテンポラリーブランドとしての地位を確立できるかが注目される。