【トップインタビュー】クロスプラス 山本 大寛社長

2018/10/22 04:00 更新


 ファッション業界において従来型のビジネスモデルは通用しなくなりつつある。ITの普及以来、流通構造、トレンドはめまぐるしく変化し、生産地も多様化。消費者ニーズも枝分かれし、社会現象を巻き起こすような洋服を生み出すには苦難の時代になった。

 クロスプラスが目指しているのはそんな社会変化に対応出来るプラットフォームを構築した次世代型総合アパレル企業だ。企画、生産、販売を高い次元で総合的にプロデュースする。営業、MD、生産管理、デザイナー、パタンナーなど総勢700人を超えるスタッフを抱えたクロスプラスグループを率いる山本大寛社長に今後の経営施策を聞いた。

――現環境をどう見ている

 エンドユーザーは何かきっかけが無いと洋服を買わなくなっています。旅行、音楽など選択肢が増えて多様化する社会で、他の支出に比べて洋服の優先順位が下がってきています。一度買った物はもういらない。だから、我々はどんどん新しい提案をしないといけない。でも、デザインで爆発的なヒット商品を出すのは今の環境では至難の業です。少し前にガウチョパンツがヒットしましたよね。でも単品であれだけのヒットを生み出すのは簡単ではありません。

 アパレルメーカーとして必要なのは、「ファッションを大きく捉えた切り口」での提案でしょう。例えば音楽でいうと、消費者はCDを買わなくても、「音楽を楽しむ」というマーケットに対しては消費しているかも知れない。ファッション業界も旅行や母の日などイベントやシーンに合わせた提案をしてきました。でも今はそれでは弱くなっているのだと思います。

 うちは様々な情報を集めて、企画し、作る。ここを伸ばしていこうと思っています。今年のクロスプラスのスローガンは「とがる」です。とがるのは、デザインでも良いし、リードタイムでも良い。取引先がなぜクロスプラスを選んだのか。その理由になるようなとがりが必要で、決してありきたりではいけません。世の情報を分析し、うちのフィルターを通した研ぎ澄ました提案をしていきます。

――今年、メンズODMのサードオフィス、帽子製造卸の中初を買収、グループ化した

 今年で最終年度となる3カ年の中期経営計画で意識してきた点の一つは、自分たちが持っていない販路と商品をどうやって拡大するのかということ。ファッションという大きな単位でウイングを広げていく必要があるからです。サードオフィスは我々が苦手なメンズを扱っていますし、9月にグループ企業になった中初はうちがこれまでやってなかった帽子の販売をしています。自社でやるという手もありましたが、やっぱり専業は専業の強みがあります。

東京・目黒区にある「サードオフィス」のショールーム

 ただし、まずは各企業それぞれが自立して、選ばれること。これが何より大事だと思っています。レディスODMのスタイリンクも含めて、グループ企業はすべて企画して作るのが強い企業です。それぞれが個性を出して、数ある競合の中から、選ばれる存在になって欲しい。

 グループシナジーはその次の段階です。販売、生産、企画、貿易、物流など様々な面でどういった連携が出来るのかを模索していきます。

 今後アイテムとして強化していくのは雑貨です。社内にバッグや靴、首周り品を扱うFG(ファッショングッズ)ディビジョンもありますが、まだ課題が多いのが現状です。将来的にエンドユーザーの生活まで踏み込んだ提案が出来るようになりたい。

東京・浅草橋にある「中初」のショールーム

――16年2月にマーケット開発部を新規販路開拓目的で立ち上げた。成果と課題は

 新規で繋がった取り引き先には少しずつあてにされるようになってきました。今は継続的に30社弱と取り引きしています。ブランドによっては、布帛アイテムから始まって我々が得意なニット・カットソーまで要望が拡大しています。

 課題は取引企業、ブランドの数が伸び悩んでいる点です。もしかしたら、小回りが効かなくなって、お客様にとってスピード感が足りないのかも知れません。

 現在、そこを補う新中期経営計画を策定中です。これまでは経営企画室や役員だけで内容を考えていましたが、初めて中堅管理職、若手社員もメンバーに入って内容を検討するようにしました。現場の肌感覚を方針に取り入れる狙いもありますが、策定に関わることで個々の社員が会社全体のことに興味を持つようになって欲しいと考えています。現場はどうしても自分の仕事や所属部署のことに関心が集中しがちです。この機会に全体を捉える広い視野を持ってもらいたい。

――効率的に働けるよう業務改善プロジェクトを推進している

 仕事の仕方を変えていくのが一番の目的です。今年8月からは東京オフィスでフリーアドレスを導入しました。固定した席で仕事をしていて効率が上がるだろうかという問題意識から導入しました。フリーにすることで仕事の仕方が変わったり、今まで話したことの無い社員と話したりするようになるかも知れない。それで面白いアイデアを得たり、生産工場を共有したりして、仕事の幅を広げ、結果的に生産性が高まれば良い。

8月にフリーアドレスを導入した東京オフィス

――ODMビジネスの将来性についてどう考えるか

 マーケットは小さくなり、多様化していますし、今後ずっとODMだけでは厳しいかも知れません。今後の中期経営計画にも関わってくる部分ですが、大きくデジタルの領域で何が出来るかを考えています。ただし、際立つ物を供給すればまだやっていける部分もある。規模の経済が働かないところがこの繊維産業の面白いところでもあります。

-Topics- 「業務改善プロジェクトを推進」

 クロスプラスは若手育成に力を入れ、働きやすい環境を整備している。東京オフィスでは今年8月にフリーアドレス制を導入。若手が他部署を含めたたくさんの先輩社員と交流してもらい、新たな価値創造につなげる。スケジュール管理や交通費精算などでもITツールを積極的に取り入れるなど、常に変化を恐れない。「若手に当たり前のものを導入し、学生から選び続けてもらえる会社にしていきたい」と山本大寛社長は強調する。


profile
山本 大寛(やまもと・ひろのり)氏
1977年生まれ、福岡県出身。
02年東京大学大学院修了、08年クロスプラス入社。
11年執行役員、14年から代表取締役社長。

クロスプラス

http://www.crossplus.co.jp/

(繊研新聞本紙10月22日付)




この記事に関連する記事