新技術を大胆に取り込み、総合商社の新たな形へと進化、変貌を遂げようとしている伊藤忠商事。「いざ、次世代商人へ」というステートメントを掲げ、新たな中期経営計画をスタートさせた。繊維カンパニーも次世代型ビジネスモデルへの転換を表明し、EC関連ビジネス、新技術の活用、サステイナブル素材の開発を加速させている。従来型のビジネスモデルに安住せず、さらなる成長へ。全社そして繊維カンパニーが歩み始めた。
既存ビジネスだけでは限界
―繊維カンパニーの意識が大きく変わり始めた。
次世代型ビジネスモデルへの転換を加速させます。世の中の変化や新たなテクノロジーを取り入れた次世代型ビジネスを確立しなければ、商社のビジネスはジリ貧になっていきます。国内ファッション市場は、絶対量も金額も拡大することは考えられません。既存ビジネス(素材・製品OEM、ブランド、繊維資材)を伸ばすだけでは限界があります。だからこそ、次世代型のビジネスモデルを確立させなければならないのです。
次世代型ビジネスと言っても多種多様ですし、すでに着手している案件も少なくありません。今、考えているのは、EC関連ビジネスの拡大や新技術の活用、サステイナブル素材の開発といった、我々がイニシアチブを発揮できるビジネスの推進です。EC関連では、ブランドや事業会社ごとに強化してきましたし、これがベースですが、伊藤忠としての共通プラットホームを構築することも検討しています。
―新たなテクノロジーへの関心を強めている。
新技術としては、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の活用を推進します。すでに香港・IPAを軸に生産効率アップに取り組んでいますし、AIによる需要予測も本格化させ、顧客の企画をサポートしていきます。サステイナブル素材については、長年、原料、テキスタイルに経営資源を投入してきたことが生きてくるでしょう。ESG(環境・社会・ガバナンス)、リサイクルなどのキーワードも重視します。
事業投資についても大切なのは次世代型という視点です。総合商社は繊維事業を外出しするケースが多いのですが、伊藤忠商事は本体で繊維カンパニーとして運営しています。本体で手がけることで大きな投資を決断できます。子会社が担う形では、そこまでの投資に踏み切れないでしょう。その意味で、伊藤忠の繊維カンパニーだからこそ可能な事業投資があると信じています。数十億円規模だけでなく、数百億円規模の投資も考えます。勝負どころでは大きな投資を実行します。
繊維・ファッション業界で果たすべき役割
―投資を実行するにあたってのスタンスは。
基本となるのが、これまでお付き合いのある取引先との間で検討すること。つまり、既存ビジネスの延長線上に次世代型ビジネスがあると言えます。トレードで関係を構築した取引先が新たなビジネスに挑戦する際にサポートすることが1つの理想です。もちろん全く新たな相手と取り組むことも考えられます。例えば、IT企業と連携して進めるという形です。伊藤忠はリアルビジネスの経験が豊富ですが、リアルビジネスを強めたいと考えるIT企業も少なくありません。こうした企業と取り組む可能性もあります。
次世代型ビジネスモデルへの転換をめざす中で、伊藤忠が繊維・ファッション業界で果たすべき役割についても考える必要があります。国内産地との関わりを例に取ると、全般に産地は厳しい状況です。ただ、新たな事にチャレンジされている産地、企業も少なくありません。我々もこうした産地、企業とともに新たなビジネスを育成できればと考えています。
ブランドをしっかり磨き上げる
―既存ビジネスに対する考え方は。
18年度の重点施策としては、次世代型ビジネスモデルへの転換に加えて、海外収益の拡大、既存ビジネスの更なるブラッシュアップを、掲げています。海外収益の拡大に向けては、中国・アジアの優良企業との取り組みを深耕します。
既存ビジネスのブラッシュアップでは、伊藤忠の強みであるブランドビジネスがポイントになります。かつてのように、海外の大型ブランドを取得して、大きな仕掛けをするという時代は過ぎ去りました。ブランドビジネスを進化、発展させるために必要なのは、今、取り扱っているブランドをしっかり磨き上げること。活性化させなければなりません。「コンバース」「ランバン」など順調なブランドはありますが、全体として、もっと資金を投入し、発信を強めたいですね。もう一度、ブランド価値を上げる努力が必要なタイミングです。ブランドを磨いて、価値を上げるには決め技が1つという訳ではなく、たくさんの技を駆使する必要があります。資金と手間をかけてしっかりと進めていきます。
2021年トピックス
新しい事にチャレンジした方が良い
今、仕込んでいる次世代型ビジネスモデルが形になっているのではないでしょうか。素材ビジネスでは、今年、パイロットプラントを立ち上げたとして、3年後には本格生産というスケジュールになればと思っています。EC関連ビジネスであれば、もう少し早く、20年頃には結果が出ているかもしれません。いずれにしても既存ビジネスだけでは厳しいことは間違いありません。現在の延長線では閉塞感が漂ってしまいます。今のうちに将来の手を探っていくことが不可欠です。既存ビジネスでリスクを取るならば、新しい事にチャレンジした方が良い、そんな思いを強く持っています。
Profile
こせき・しゅういち
1955年生まれ、山形県出身。
79年 東京外国語大学・中国語卒。同年 伊藤忠商事入社。
2005年 テキスタイル・製品第一部長。
07年 執行役員 繊維原料・テキスタイル部門長、10年 常務執行役員 中国総代表代行(華東担当)。
11年 東アジア総代表、15年 常務執行役員 繊維カンパニープレジデント。
16年4月から現職。62歳。
https://www.itochu.co.jp/ja/business/textile/