【トップインタビュー】JR西日本SC開発 山口正人代表取締役社長

2018/07/30 06:10 更新



 プロデューサー型SCの理念に基づいたSCとして、11年5月に誕生したルクア。フロア担当を軸にしたテナントとのコミュニケーションを積み上げ、ルクア流の独自MDや施設運営手法で売り上げを伸ばしてきた。15年4月に、百貨店と専門店を融合したルクア イーレを立ち上げ、ルクア(東館)とルクア イーレ(西館)を一体化したルクア大阪となった。その後も、Eコマースとの融合を目指した「ルクア・デ・受け取り」の開始、業態開発の観点で構築した「ルクアフードホール」など、商業施設運営のビジネスモデルの深化に取り組んでいる。

プロデューサー型SCを具現化

―これまでを振り返ると。

 ルクアは、新会社を立ち上げて新しい館を構築した、JR西日本にとってのシンボル的な商業施設のひとつです。徹底的なマーケティングから始めて、ターゲティングや館のコンセプト、フロアプランを決定し、テナントリーシングをしました。テナントコミニュケーション重視の運営など、当時言われていたプロデューサー型SCのあるべき論を具現化したものです。

 大阪・梅田は開業前から商業激戦地と言われていましたが、開業初年度(11カ月)は250億円の計画に対し340億円。開業2年目の秋に阪急梅田本店の大改装オープンがあり、影響を受けると見ていましたが、さらに売り上げが伸びました。20代~30代前半の感度の高い女性を主要ターゲットに、高感度で洗練されたライフスタイルを提案するSCという、ありそうでなかった領域が浮き彫りになったと思っています。ルクアの梅田地区でのポジションも確認できました。この年(12年度)に、第15回ディベロッパー大賞を首都圏以外の施設としては初めて受賞しました。

 その一方で、梅田地区では面積も一番小さく4番目の店としてオープンした百貨店が、このままでは難しいことが見えてきました。ノースゲートビルディングの商業施設全体をルクアのノウハウ、SC方式でリノベーションする。百貨店の強い部分をテナントの形で導入する姿が良い、といった議論から生まれたのがルクア イーレです。イーレのコンセプトは「ギャップ、コントラスト、マリアージュ」。顧客起点で考えると、百貨店と専門店を境目なく買い回れることは最適な姿ではないかと。一見ギャップのあるものを融合させることがキーワードです。この考え方は、その後の改装など色んな取り組みにも繋がっています。18年春には、地下2階に食物販と飲食を融合したルクアフードホールを開設しました。常に完成はありませんが、これで巡航状態になったと見ています。

ルクア大阪の入るノースゲートビルディング

ミクロの購買行動を見る

―ルクア大阪の強さとは。

 フロア担当をかなり手厚く配したことです。テナントの方々により良く販売してもらうために、ある意味おせっかいかもしれませんが、ルクアにはどんな客層がどのようなシーンで来店されているか、売れ筋はどうか、といった情報提供を積み重ねてきました。また、サイズや色欠けといった店頭の品揃えの課題に対しても、店長とともにテナント本部に掛け合うことも普通にしています。これらをPDCAで繰り返し、良い姿にしていこうと地道に取り組んでいることが大きな特徴であり、強みです。

 結果、フロア担当や営業担当者は、顧客が誰でどんなシーンで来店されるかを考えることが常態化しています。「顧客×シーン」が来店客数と常々言っていますが、顧客を増やすためには、シーンに対応するためにはどうするか。マクロではなく、ミクロに購買行動を見ることでこそ、打ち手が見えてきます。結果良ければ繰り返し、成果が出なければ手直しする。積極的にPDCAを回していく風土が根付いています。

飲食と食物販を融合したフードホール

―Eコマースなど商業環境の変化について。

 店やブランド、モノとともに購買チャネルもどんどん多様化しています。選択肢が多様化するなかで、自分たちが関わる領域を広げていくことを考えないといけません。同じ領域のなかでじっとしていると、当然分配は小さくなっていきます。Eコマース発祥ブランドのリアル店舗を複数導入していますが売れています。Eコマース単独ではなくリアル店もあった方が、利用客との接点やビジネスチャンスも広がるはずです。利用客からしても、リアル店にないものをEコマースで選べ、現物確認や試着をリアル店で出来ることは最適ではないか。日本的宅配サービスの人材不足という社会問題もあります。家具などと違って、持って帰ることができるアパレル系のクリック&コレクトは最適解ではないかとの思いもあり、「ルクア・デ・受け取り」を開始しています。

業態開発の思考を持つ

―これからのルクア大阪は。

 地下2階を手直しするのに際して、通常のリーシング部隊ではなく、広い意味での業態開発を真剣に考えるために業態開発室を立ち上げました。結果、食物販と飲食店を融合したルクアフードホールが生まれました。私たちがこういうものがあればと考えたことを、テナントとなった阪急オアシス側も同じく考えていました。ディベロッパーとテナントの“二つの頭”の考えが同じであれば、かなり確率は高い。互いに共感する開発ならば消費者の共感も得られるはずです。思えば、百貨店と専門店の融合、クリック&コレクトにしても業態開発に相当するのではないか。業態開発的な思考はこれからも重要でしょう。

 今、駐車場サービスの拡大に取り組んでいます。「大阪駅にあるルクア大阪」と誰しも思っているでしょうが、「大阪駅もあるルクア大阪」と考えればどうなるか。車で来店しにくいイメージを払拭すれば、来店シーンがまたひとつ増えることになりますから。現在のルクア大阪を築いてきた原動力は、分析にとどまらない実行力です。これからも迅速果敢にPDCAを回していきます。また、対抗するような業態が今後も台頭してくるかもしれませんが、顧客起点で考えれば別ものではありません。顧客起点で最適な組み合わせを提案していきます。さらには、当社の持つノウハウやマインドを、次なることへのチャレンジにも活用したいですね。

profile

やまぐち・まさと

1982 年 日本国有鉄道入社、 87 年 西日本旅客鉄道人事部人事課主席、96 年 経営企画部主幹、2000年 岡山支社次長、02年 人事部マネージャー、07年 鉄道本部営業本部次長、10年 執行役員創造本部副本部長、JR西日本SC開発取締役、13年6月 から現職。59 歳。

会社沿革

2005年1月 会社設立、10年4月 企業理念制定、11年5月 ルクア開業、15年4月 ルクア イーレ開業、 17年3月 ルクアOSCカード発行、9月 ルクア イーレ地下1階大規模改装、12月 ルクア大阪地下2階バルチカ拡大、18年4月 ルクア大阪地下2階ルクアフードホール開業。

テナントが選んだディベロッパー賞(繊研新聞主催)

12年度「大賞」13年度「敢闘賞」14年度「敢闘賞」15年度「大賞」16年度「準大賞」17年度「大賞」


https://www.lucua.jp





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