‟めんどう”にヒント
―帝人創立から100年。グループ内で繊維事業を担う。
「暮らしは、せんいで進化する。」をコーポレートメッセージとして掲げ、繊維の可能性は無限大と考えています。成長の鍵は優れた技術力とそれを背景にした新事業の開発です。
帝人から産業用ポリエステル繊維事業を譲り受け、衣料、産業資材向けを問わずポリエステルのポリマーから原糸、生地、製品そして販売を一貫で手掛ける商社になりました。世の中にないもの新しいものを生み出すことが差別化の源泉ですから、製造拠点のタイに研究開発拠点を開設、日本の松山、南通の既存研究拠点と連携し、3極での研究開発を進めます。タイにはバナナやパイナップルなど面白い繊維があります。以前からある繊維ですが新技術を使えば特徴のある新商材を作れます。
今の消費者が〝めんどうくさい〞と感じていること、手間暇をかける必要があるもの、に商売のヒントを感じます。不可能だったことがデジタル技術などの最新技術を使えばできるようになることがあります。例えばウェアラブルでは、「見守り」が可能になります。実家のご両親の健康状態に心配があっても離れた場所にいながら常にチェックすることができる。こうしたニーズは人間だけでなく、犬などのペット向けにもあります。
―ウェアラブルの新会社を立ち上げた。
ウェアラブル市場に本格参入します、我々の技術力と帝人グループのインフォコムのソフト解析力、スポーツに特化した身体運動計測・データ解析するスポーツセンシングの発想力とデバイス技術を連動すればいい仕組みができます。アスリートのモーションデータを取り、理想的なフォームなどのデータを蓄積すると、こうしたデータを使って上手くなりたいという人を手助けする製品やサービスを提供できるかもしれません。そうなれば競技人口が増え、多くの人がスポーツを楽しめるようになる。スポーツから始めますが介護、ワーキングなどにも広げたい。プラットフォームを作り、様々な企業や学校、研究機関などが参加する形で事業の幅や奥行きが大きく広がります。
難度は高いですが病院向けも狙いたい。今はリネンサプライ分野だけですが、ウェアラブルの技術を組み合わせることで大きなチャンスが生まれます。本体のヘルスケア部門との連携を狙い新たにチームを立ち上げましたので、プロジェクト化して進めます。
プラットフォームを作ったからといって事業化がすぐに見込める訳ではありません。ただプラットフォームを持つことで様々な話が舞い込んできます。ビジネスの基本は諦めないこと。担当が100人いてもできないことも〝熱い〞担当者が一人いれば、世界中を走り回って突破できる。商社の武器は人ですから。
技術+マーケティング
―マーケティングに力を入れている。
究極シリーズを作れと発破をかけています。例えばスポーツ分野で好調な機能素材「デルタ」。デルタでレインウェアの試作品を作りゴルフで試したところ絶賛されました。水が滑り落ちて濡れず、蒸れず、スイング中に生地が擦れ合う音もでないことから「ぜひ欲しい」と言ってもらえた。こうした究極的な商品を作る技術はあるので上手くマーケティングすればブランド力がもっと高まる。PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維の「ソロテックス」もそう。販売が好調でお客様から「ラベルを付けたい」との要望が増え、手応えを感じています。
デジタルマーケティングを強めます。例えばメディカル、アパレルに強いなど約10社のスタートアップ企業と連携し、弊社のブランドをどう訴求すれば良いのか一緒に研究しています。またマーケティングを切り口にしたサービスの提供も考えています。目的買いできたお客さんに別の商品も買ってもらうためにAIが画像分析して傾向をつかみ、最適な商品配置や適正在庫を割り出し小売店にパッケージ販売する試みも考えています。
―世界でどう拡大する。
私たちの持つ技術をグローバルに十分紹介できていません。例えば産業資材は全方位型で大半の産業資材用途に使われています。厳しい業界でステータスがあるということは強さを出せている証。自信を持って世界に売れば伸びる可能性は無限大です。特に中国を攻めたい。
南通帝人は過去最高益、帝人フロンティア上海は予算を上回り、中国は好調です。南通帝人はフル生産が続いています。設備を入れ替えて高付加価値化を進め、難度の高いものは自社で、それ以外は外注に出すなど使い分けます。中国にはアパレル、生地、産業用資材など日本と同じ組織があるので日本のモデルを持ち込み勝負できます。ウェアラブルでは日本で進む高齢化の動きに対応できればそれを中国でも生かすことができます。
―衣料事業の拡大は。
アパレル製品事業では生地開発力の強さは生かせています。縫製面での差別化は難しいですが、膨大な縫製OEM(相手先ブランドによる生産)網を持ち、QR、ローコストを実現できる点は武器で、工場の省人化に取り組みます。まずはロボット化でミス、ロスを減らす。プロジェクトは進みつつあり、チームを立ち上げました。ある縫製拠点でAI、ロボット化を研究中です。そうした仕組みができれば国内縫製も可能になります。
帝人フロンティア株式会社
【URL】https://www2.teijin-frontier.com/
(繊研新聞本紙6月25日付け)