【トップインタビュー】ヤギ 八木隆夫社長

2018/04/27 04:00 更新




 繊維専門商社のヤギは、「総合力発揮の強化」「新領域への挑戦」「構造改革の実行」の三つを重点方針に掲げてグループの中期経営計画「スパークス2020」を実行中だ。20年3月期を最終年度とする中計を達成するために企業の買収や出資、新会社の設立などを積極的に仕掛け、既存事業の高収益化と新領域への挑戦、グループシナジーの創出に力を入れている。

「総合力発揮の強化」には仕組み作りが必要

―積極的な動きが目立ちます。

 ファッションビジネスは川上から川下へと分業が成立していましたが、今はボーダーレスになって商社の立ち位置が難しくなっています。当社の領域だと思っていたところを、他からどんどん侵してくる。当社に無い部分、弱い部分を補完するために、買収や出資をすすめてきました。

 14年に「タトラス」などを販売するリープスアンドバウンズ(現タトラスジャパン)を子会社化し、高価格帯ブランドを手掛けました。16年に綿のシャツ地の企画、販売に強みを持つイチメンを子会社化しました。現在の中計がスタートした17年には撚糸を主力事業とする織物・ニット用素材加工の山弥織物、紳士・婦人服のデザインおよび製造販売を主力とするアタッチメントを子会社化するとともに、バースデイと共同で、事業開発などを手掛ける新会社ボールドマンを設立しました。

 中計では子会社もあわせた「総合力発揮の強化」を掲げています。イチメンの差別化した生地をヤギの製品部隊のビジネスにどう生かすか。山弥織物とイチメンで連携してこれまでのヤギでは出来なかった様なこだわりの強い商品を開発できないか。買収前と計画が大きくずれているわけではありませんが、シナジー効果を出すためには、各社の人材交流も含めて、仕組み作りの必要性を感じています。

社員一人ひとりが仕事にワクワク感

―新領域にはどう挑戦していきますか。

 会社として積極的に動いてきたことで、社員一人ひとりが仕事にワクワク感を感じて、新しいことに挑戦する流れが出来てきました。

 メンズバッグ「クラムシェル」を立ち上げ、パリの展示会「トラノイ」で1月にデビュー、18~19年秋冬物から販売を始めます。これは「アタッチメントのウェアに合うミニマルなバッグあれば面白い。カジュアルでもビジネスでもニーズは高いはず」と、アタッチメントのデザイナー、熊谷和幸氏にヤギから協業を申し入れて実現しました。

 また、「ベドウィン&ザ・ハートブレイカーズ」のデザイナー、渡辺真史氏がクリエイティブディレクターを務めるTシャツボディーブランド「ゴート」を立ち上げました。これは、ボールドマンの運営するショールーム「ブツヨク」に集まる人のネットワークから始まったものです。

 海外では米国のグループ企業、ソーキャル・ガーメントの動き方が変わってきました。元々は縫製工場でしたが、スタッフの経験値がアップし、米国での人脈が広がって、メンズを中心に対米アパレルのOEMビジネスがスタートしています。現地ブランドの日本への導入なども可能性が見えてきました。もの作りだけでなく、商社的な動きを出来る様に体制を変更中です。

 ここ数年、若手を海外研修に送りグローバル人材の育成に努めてきました。グローバルに動ける人材が増えています。海外の生産拠点が整ってきたので、海外素材展の活用やタトラスの海外販売などにも力を入れます。

ボールドマンの運営するショールーム「ブツヨク」が人のネットワークを広げる

原料、糸、生地の部分は繊維専門商社としての強み

―中期経営計画「スパークス2020」の成算は。

 中計の着地点は売上高1220億円、経常利益44億円を目指しています。歴史がある会社です。急成長は無いかもしれないが、安定して稼ぐ力は持っています。無用な引き算を生まないように、経営管理の面ではリスクマネジメントを強めます。

 既存事業とこの間着手した事業でバランス良くポートフォリオを構築します。タトラスは成功例ですが、そうかと言ってブランドを買収することばかりは出来ません。もちは餅屋です。これまで原料、製品を扱ってきた中で、生地を織ったり、編んだりすることが得意な人もいるし、OEM(相手先ブランドによる生産)が得意な人もいます。今、売上げの大枠は7割がブランドビジネスも含む製品事業で、3割が原料、糸、生地です。それぞれの事業を生かしてアメーバーの様に伸ばして、成長します。ダメな場合は撤退することもありますが、大枠のバランスは変わらないと思います。

 原料、糸、生地の部分は繊維専門商社としての強みです。製品事業で利益を確保するためにも原料、糸、生地からの差別化は欠かせません。例えばヤギ香港を基点にしたリサイクルコットン「リサイカラー」や、インドでのオーガニックコットンの取り組みなど得意の綿をブランド化する動きも生まれています。

 一方、非衣料分野は、まだコメントできるほどの規模ではありません。立ち位置としてはこれからも衣料が中心です。

リサイクルをキーワードに綿をブランド化した「リサイカラー」(インターテキスタイル上海のブース)

2021年トピックス

有機的、機能的なグループに

 この間、種を蒔いてきたことが花開いてシナジーを発揮し、強い収益力を持ったグループとなっています。

 ヤギ、タトラス、ソーキャル・ガーメントなどグループには川上から川下までの企業が揃っています。これらを企業名ではなく、機能として並べると、ここはOEM、ここはブランド、ここはアメリカなどグループ全体のバランスが明確になります。よく見ると足りない機能があるかもしれません。

 各社がグループ内における役割を果たし、それぞれが有機的、機能的に関わる仕組みを3年後には完成させます。

順調に売上げを拡大するブランド「タトラス」(東京ミッドタウン日比谷)


Profile

1973年 生まれ、兵庫県出身。

京都大学大学院工学研究科修了、1999年 インドネシア石油(現国際石油開発帝石)入社、2011年 にヤギに入社、2013年 取締役管理本部長代理、2015年 常務取締役、2016 年 6月 から現職。

株式会社ヤギ


【URL】https://www.yaginet.co.jp/

(繊研新聞本紙4月27日付け)




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