20年以上前から挑戦してきたエンターテイメントやブライダルなどの異業種は現在、柱事業として成長を遂げ、多角化経営の先駆的存在であるAOKIホールディングスが強みを発揮する時代に突入した。ファッション事業のAOKIにエンターテイメント事業のフィットネスジムやインドアゴルフを併設するなど、既存事業を融合することで新たな価値を生み出す。主力のファッション事業では、長年培ってきたスーツをつくり・売る力を背景にした顧客のニーズ・ウォンツに基づく商品開発によって、「いい着心地・いいスタイル・いい仕事・いい生活」を提供する。「ライフ&ワークスタイル」を提案するAOKIの本番はこれからだ。
リアル店舗への回帰
コロナが第5類感染症に移行して、お客様の外出が確実に増え、消費動向は様変わりしました。「一緒に集まって人と話したい」という要望は高まっています。こうした流れは、オフィス回帰やオケージョン需要が復活したファッション事業はもちろん、エンターテイメントやブライダル事業など当社の各事業の業績回復につながっています。ファッション事業ではリアル店舗への回帰が進んでいます。ビジネスパーソンの働き方がリモートワークからオフィスへの出社が増加傾向にある中、今までのリラックス感からきちんと感を意識したセットアップやスーツを求めるようになってきました。コロナ禍での体型変化で既存のサイズが合わなくなり、買い替えるお客様も増えました。特に上半期はシャツの購入が多かった印象です。旅行需要の回復からジャケットやパンツの売り上げも伸びています。
スーツをつくり・売る力
主力アイテムのスーツも堅調です。コロナ禍で地方の百貨店が閉店するなどスーツを購入できる場が減少したこともあり、AOKIへの新規客の来店が増えました。AOKIの強みは65年にわたるスーツをつくり・売る力です。今後、スーツ市場全体の規模が拡大することはないからこそ、「スーツをつくる構造の思想」を社会やライフスタイルの変化に合わせて転用した商品開発が重要になってきます。これからはスーツだけでなく、多様なビジネススタイルに対応できる高機能なセットアップや「パジャマスーツ」などカジュアルなセットアップを拡充していきます。その際、「いい着心地・いいスタイル・いい仕事・いい生活」のご提供を目指すことが「ライフ&ワークスタイル」のAOKIらしさにつながります。
今春夏はシャツやビズポロ、Tシャツなどインナーのバリエーションを増やしました。同じセットアップでも、インナーを変えることにより、ビジネスでもプライベートでも着用できるようになります。ちなみに、Tシャツと言っても、従来の普通のTシャツではセットアップに合いません。そこでAOKIでは「スーツ屋の仕立てたTシャツ」を開発し、おかげさまで大ヒット商品になりました。昨年夏からの累計販売数が10万枚を突破したのです。ニーズ・ウォンツに基づく商品開発は、強みであるスーツの生産背景によって付加価値を高めることができました。
仕事のスタイルが多様化したことで、お客様が自分に合うものを選び、コーディネートすることが難しくなってきました。そこでAOKIでは、全国で販売現場の最前線に立つ、店頭の「スタイリスト」(販売員)が強みを発揮します。お客様お一人おひとりのニーズ・ウォンツを聞き出し、ファッショントレンドも加味したスタイリングの提案をします。そうした接客を受け、服を購入したお客様は周りの人たちに好印象を与えることができるため、満足度も高まります。スタイリストが対面販売でのコーディネート力を磨き上げる目的でロールプレイング大会を年1回開催しています。
グループ内業態併設店に成果
今後はお客様のライフスタイルの変化を売り場にも反映していきます。既存業態のトランスフォーメーションを目指します。ファッション事業にとどまらず、エンターテイメントやブライダルなど既存事業を掛け合わせ、モノとコトを融合することで、イノベーションを起こし、新しい価値を提供していきたいと思っています。昨年からトライアルでスタートしたファッション事業のAOKIにエンターテイメント事業のフィットネスジムやインドアゴルフを併設した店舗は今上半期末で10店舗超になる見込みです。AOKIの主力顧客である男性ビジネスパーソンは元々ゴルフと親和性が高い客層です。例えば、インドアゴルフと併設することで、これまでAOKIに年1~2回しか来店してなかったお客様がゴルフの練習のため2週間に1回と圧倒的に来店頻度が高まるかもしれません。タッチポイントが増加することで新商品を紹介するチャンスが多くなり、購買の可能性も高まるでしょう。もちろんフィットネスジムとインドアゴルフの併設店はスポーツや健康志向の観点からも相性は抜群です。
これは長年にわたり、多角化経営を進め、全事業合計で約1400店舗体制を確立している当社にしかできないことです。当社が20年以上前に手掛けたカラオケや複合カフェなどのエンターテイメントやブライダルなどの新規事業はファッション業界にとっては全くの異業種でした。各事業は全て直営店として運営しています。各分野の人脈・ネットワーク、ノウハウなどを積み上げてきた結果、各事業は業界を代表する規模に成長しています。今までは多角化経営によって、縦割りで事業ごとの成長を優先してきましたが、各事業で次代を担う経営チームも育ってきており、これからはモノとコトの掛け合わせによって新規客を開拓できる可能性は大きくなっています。ファッション事業からエンターテイメント事業に社員が異動するなどハイブリッドな人材育成の成果も出てきました。今後はコト消費から生まれる熱心なファンコミュニティーの形成がモノの販売に欠かせなくなってきます。当社の多角化した既存事業を融合し新たなカタチに進化させるタイミングが今なのでしょう。
リアル店舗への回帰
従業員満足(ES)にも力を入れています。常に従業員が何を考え、何に不安・不満を感じ、経営についてどう思っているかなどの思いを可視化し理解する仕組み作りに着手しています。半期ごとにアンケート調査などを実施し、それを従業員にフィードバックして課題解決に臨みます。経営チームと従業員が信頼関係を築き上げることが大切です。
サステナブル(持続可能な)活動については、店頭で下取り回収したスーツのリサイクル活動を、TOABOとともに1996年から実施しています。こうした活動は継続が大事です。回収サービスの進化形として、昨年からファッションロス(廃棄される衣類)の問題に対応するため、伊藤忠商事とECOMMITが運営するアパレル製品のリユース・リサイクルの取り組みである「Wear to Fashion」や、株式会社JEPLANが運営する服のリサイクルの取り組み「BRING」に参画。「OKAERI エコ プロジェクト」と題し、ウール混製品だけでなく、ポリエステル製品のリサイクルにも注力しています。
お客様・従業員・地域社会の皆様がご満足いただけるよう、そして社会・地球環境と共存できる企業を目指して、常に進化し続けてまいります。
株式会社AOKIホールディングス
企画・制作=繊研新聞社業務局