【トップインタビュー】小泉株式会社 代表取締役会長 植本勇氏(PR)

2023/07/24 00:00 更新


 近江商人の心得である「売り手良し、買い手良し、世間良し」の「三方良し」を守り、300年を越える歴史を持つ小泉。ファッションの多様なニーズに応え、近年は分社化やM&A(企業の合併・買収)を進めてきた。レナウン主力ブランド「シンプルライフ」「アクアスキュータム」「ダーバン」などの事業譲受も記憶に新しい。販路や商品の違うグループ企業を抱えるホールディングカンパニーとして、子会社それぞれを峰に例える「アルプス経営」を実践してきた。次のステージに向けてグループの総合力強化が課題となる。理念を共有して時代の変化に即応できる、強い企業集団へと進化を目指す。

ロスをなくしてコストを下げる

 小泉グループの売上高は500億円レベルですが、かつて売上高1000億円を目指した時期もありました。しかし現在は売り上げを競う時期ではないと判断しています。

 当グループの経営は、多数の峰を持つアルプス山脈のように、それぞれの企業が成長を目指すアルプス経営と呼んでいます。

 子会社にはオッジ・インターナショナルのように販路が百貨店向けのメーカーもあれば、小泉アパレルやコスギなどのGMS(総合小売業)向けメーカーなど多様です。肝心なことは顧客に見合った商品開発をすること。各社とも商品、販路、工場をきちんと整備して「深く、狭く」商品開発や取り組みを進め、資産を形成してきました。

 アパレル業界では、各社がさらにコストを下げるために1000枚より2000枚、3000枚と生産量を増やしてしまう『作り過ぎ』が起こっています。その結果、日本のアパレル製品の調達数量約30億枚のうち、ほぼ半分強しか消費されなくなっています。それがアパレル業界の収益性が低い状態を繰り返してきた。

 そこにコロナ禍で売り上げが落ち、企業の存続が危ぶまれ、「これではいけない。作り過ぎてロスを生むのは反省すべきだ」と、皆さんが気付き始めたわけです。こうした反省からアパレル生産は減るのかと思っていましたが、この間の新聞記事を見ると19年度の生産枚数に戻りつつある。

 我々は再度検討する時期にあります。コロナ禍がおさまり、自粛もなくなり、店もすべて開けられるようになり、これまでの買い控えの反動も起こっています。しかしこの反動が今後も続くと考え、これまでセーブしていたものをやめると、元の木阿弥になる危険性がある。

 これは自社の問題だけではなく、業界全体に起こり得る問題としてとらえ、再度、適正・適量・適価を見直し、ロスをなくして行かなければなりません。ロスは最終的に消費者に転嫁することになります。ロスがなければもっと安く売れることを心がけるべきです。

オッジ・インターナショナルが展開する高品質な「ダーバン」

強い可能性を持つインド生産

 当社は40年近い前から中国以外に、民族的な商品が多く個性あるインドでの生産に力を入れていきました。インド綿は非常に風合いが良く、プリントも独特の柄で品質と強い個性は日本市場でも良く受け入れられています。

 海外生産は素材背景の有無が重要です。インドは世界の合繊メーカーが進出し、欠点だった合繊の手配が解消され、良質な合繊織物が作られるようになりました。当社はGMSに向けて、綿や麻、合繊、複合繊維を使い、単品ではなく、トータルコーディネートできる商品開発を進めていきます。そのためのマザー工場も用意しており、下請け工場に技術指導していけば、先行的な仕事もできるようになります。

 インドで素材手配と生産、商品選別し、生産から物流まで完結し、取引先の各店まで届けられるようになれば、コスト面でもかなりの効果が出ると思います。そしてロスを減らす短サイクル生産で、新商品が月に2回並ぶ売り場を可能にできれば、消費者からの支持も得られるようになると思います。


次世代のための小泉塾

 小泉は元々呉服商で、私の入社時にはテキスタイル事業の売り上げは、ほんの一部でした。その呉服が今では全体売り上げの数%に過ぎず、呉服に固執していれば今の小泉はなかったでしょう。仕事を自由に変化させてきたからこそ、結果的に会社が今も残っているのだと思います。

 どんな企業でも過去の継続はじりじりと業績を落として、刺激をなくし、気付けば会社がなくなっている事態になりかねません。成功した経営者はかつて、夢を描き、その実現を目指してきました。実現できなかった人も多いでしょうが、夢を持たない人に実現はあり得ません。

 その思いから、社員一人一人が夢を持つために、グループ内を横断する研究会「小泉塾」を始めました。グループ内の各社が、自社さえ良ければそれで良しでは、遠心力だけが働いてしまいます。反対に資金や人材が足りないと、親会社に依存する求心力が強くなり過ぎるのも良くない。小泉塾は理念を共有して、グループ各社の遠心力と求心力のバランスを作るのを目的としています。

 小泉塾は年齢や性別、中途採用を問わず、能力のある人がリーダーになる道を開いています。小泉で「何かやってやろう」と思う人を作りたい。企業内起業家を作り出すように、ブランドマネージャーを育成し、業績が上がれば成果配分をしっかりする。さらに進めば分社して、社長にする。こうしたことが通常になれば、グループに活力が生まれると思います。

 かつてファッション産業は注目を集めるものでした。それが今では魅力が薄れ、ファッション産業に夢が持てず、離れる人も少なくありません。

 当社ではそれぞれのブランドで、適正な利益を上げ、継続する顧客を持つことができる人材を育成していきます。まずは夢を持つことができる会社となる。この考えが業界全体に広がっていくことに期待しています。

【プロフィール】38年2月15日、滋賀県生まれ。56年滋賀県立愛知高校卒、同年小泉に入社。83年小泉アパレル社長、01年小泉社長、06年小泉アパレル会長、09年協同組合関西ファッション連合(KanFA)理事長、10年から小泉会長。17年旭日双光章受章。



〒541-0051 大阪市中央区備後町3丁目1番8号

TEL.06-6223-7800

https://koizumi-gr.jp

グループ会社

・小泉アパレル株式会社

・コイズミクロージング株式会社

・京都小泉株式会社

・小泉ライフテックス株式会社

・株式会社オッジ・インターナショナル

・株式会社コスギ

・株式会社ギャルソンヌ 

関連会社

・小泉産業株式会社 

・小泉成器株式会社

企画・制作=繊研新聞社業務局



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