アーバンリサーチ(大阪市)は今春、効率的な事業運営を目的に、ブランドごとの組織から商品、販売、デジタルの機能別組織に変えた。新しい体制でDX(デジタルトランスフォーメーション)はいかに進んだのか。アパレル業界のDXを支援するシタテル(熊本)と業界キーパーソンとの対談シリーズの第2回は、「DXの到達度は5合目くらい」と話すアーバンリサーチ執行役員デジタル事業部部長の齋藤悟氏を招き、シタテル事業開発本部(事業開発部・IT開発部)執行役員CTOの鈴木達也氏とDXへの取り組みと今後の可能性について語ってもらった。
DXは業務改革、業務フローの改善につながる
鈴木 アーバンリサーチはファッションアパレル企業の中でもDXのトップランナーとして大きく進んでいるように映っています。
齋藤 DXを一層強化したきっかけはコロナ禍です。実店舗が営業できない状況で、売り上げを支えるためにECを強化していかなければならない。店舗でやっているような接客をECでもやろうということで、ライブコマースをしたり、スタッフのスタイリングを強化したりしました。それを見て、お客様はSNSをフォローしたり、レビューを書いたりしてくれます。商品やスタイリングなど、お客様が感じたこと、思っていることがデジタル上に残されている。この商品、この店舗、そしてスタッフがお客様にどう思われているのか。これをシートにまとめて店舗や商品開発で活用できるようにしました。これにより、いわゆる「接客のDX」や「ものづくりのDX」という部分は進展してきたのではないか。どの部署にも、わかりやすいDXに取り組めているのではないかと思います。
弊社は2023年4月から「商品」と「販売」、「デジタル」の三つの事業部に組織を改変しました。ブランドの区切りではなく、ワーク形態になったことで、横軸で話が進みやすくなりました。デジタルから得た情報を商品開発にも店舗での接客にも活かしていくことができる。一方で、商品や販売の立場からデジタルの改善意見を言ってもらう。EC担当者では気づかないことを話してくれます。気軽に意見交換ができるようになりました。実際にEC担当者以外の人がデジタルについて理解してくれたことが大きな進歩だと思っています。
鈴木 私たちが提供している「sitateru CLOUD(シタテルクラウド)」は、企画や生産管理の業務を効率化するツールです。多くのアパレル企業に活用していただいています。お客様と取引するきっかけはツールの提供ですが、私たちが支援するのはそれだけではありません。合理的な業務フローにするため、これまでのやり方を変えなければならないときもあります。一番の壁はDXの部署と他の部署に温度差があることです。ツールを導入しても活用されないまま失敗に終わってしまうこともあります。異なる部署が協力して、業務改革や業務フローの改善が実現すると、私たちの仕事が成功したと感じます。齋藤さんがおっしゃるように、全社共通の改革意識はもちろんですが、共通のシステムを利用しているが大事だと思います。
齋藤 「共通化」というのは一つのキーワードだと思いますね。シートに書き込むといっても形式がバラバラでは見ても理解しにくい。そこで、ページの要素を決めて、ウェブデザイナーにテンプレートを作ってもらい、書き込めるようにしました。それをデスクトップのアプリケーションではなくて、クラウド上のアプリケーションを使う。誰でも、どこからでもアクセスすることができます。やり方、仕事の仕方を統一していくことはとても大事なことだと思います。
鈴木 DX=デジタル化という感じで一般的には浸透していますが、根本的にやることは業務フローを変えるというアナログなところが一番大切ではないかと思っています。ただ、多くの企業は業務フローを変えずに、業務の一部をデジタル化しているだけにとどまっています。苦労して構築された業務フローやそれに伴うシステムを変えることは簡単ではないですが、その個々の企業が持つ文化や背景を理解したうえで、私たちのツールを提供することが大事だと考えています。
齋藤 最後は売り上げにコミットしなければならない。ツールを導入すれば、間接的でも売上に貢献することが必要です。以前は、ECなどのオンラインデータと店舗などのオフラインデータが連携することなくバラバラの状態でした。本来はPDCAを回して、どこかおかしいパートがあれば改善しなければならない。例えば、ECと実店舗で商品の売れ方などに違いが起きたとします。ECの商品写真は悪くない。スタイリングを紹介しているのもこれまで人気だったスタッフ。そうなると、ECでの接客の仕方(商品画像・モデル・テキスト・サムネイル)を再び見直す必要があり、店舗でどのような接客で具体的に売っているのかをヒヤリングし、情報化してECの商品ページを再度構築し直す必要がある。DXによって怪我しているところを品番単位で見つけやすくなる。改善しなければならないのであれば思い切って決断する。それをみんなが受け入れて改善していくことが大事です。言葉にすれば安易になるのですが、これがまさにPDCAであると思っています。
「ものづくりのプラットホーム」でアパレルを支援する
鈴木 sitateru CLOUD(シタテルクラウド)は、衣服を企画してから生産までの工程をクラウド上で管理できることが特徴です。アパレル生産におけるデータは流動性が高く、個人で管理していたデータは最新情報なのか、わからない。最悪エクセルが壊れてしまったときには取り返しがつきません。システム化すれば誰でも更新できて、いつでも最新の状況を把握することができます。また、現場業務に慣れたスタッフがスムーズに利用できるように、業界を熟知したカスタマーサクセスチームが日常的なサポートや研修などを提供しています。
一方で、サプライヤーのネットワークも確立しています。「こんなアイテムを作りたい」とクラウド上に投稿すると、シタテルプラットフォームに登録している3000社以上のサプライヤーの中で、対応可能なサプライパートナーが手を挙げてくれる機能も備わっています。
齋藤 それはアパレルにとっては心強いサービスですね。とくにネットショップなどを運営する若い人たちには力強い味方です。その人達の中には数万人のフォロワーがいて、熱烈なファンが1000人くらいいるショップもあります。実際にオリジナル商品を販売して成功している人もいて、私たちも彼らから商品を仕入れることがあります。ただ、彼らは生産背景がサポートされていないので納期が不安定です。
鈴木 シタテルには、生産背景が整っていなくても、きちんとしたアイテムを生産できる仕組みがあります。まさに生産のDXを提供するもので、大手アパレルにも、小規模の事業者にも使っていただきたいと思っています。
齋藤 よほど独自の素材でなければやっぱり相乗りしたほうがコストを抑えられる。ニットやカットソーなど、シタテルのシステムの中で生産されている製品の平均原価率や商品のクオリティー、工場の技術力などがオープン化されていると、弊社のような規模の企業でもすごく使いやすい。
鈴木 これからもっと整備していかなければなりませんが、そうしたデータを蓄積して、ダッシュボード化していきたい。サプライヤーごとに得意な商品や技術力のデータを公開して、受発注する両社にとってメリットの大きい取引ができるシステムを作り上げていきたいと考えています。シタテルが提供するサービスの一番の強みはプラットフォームです。そのデータを蓄積し、機能を拡充していくことで、大手ブランドの皆様にももっと活用していただきたいと思っています。
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