毛織物の尾州産地を舞台にした映画『BISHU~世界でいちばん優しい服~』が10月に全国映画館で上映される。尾州産地が映画の舞台に選ばれたことについて、「まさかと思った」とテキスタイルメーカーの三星毛糸の岩田真吾社長。尾州産地の繊維企業などが取材・撮影協力し、作り手の思いを伝えた。
(小坂麻里子)
映画の内容は、尾州産地の愛知県一宮市で機織工場を営む家族が娘の発達障害や工場閉鎖の危機などに直面しながら成長する姿を描いた親子の物語。
撮影場所は真清田神社や一宮本町商店街、木曽川など一宮市ならではのスポットが登場。産業観光イベント「ひつじサミット尾州」の参加企業である三星毛糸、ソトー、匠染色などの工場も映る。
クライマックスシーンの衣装は22年に装苑賞を受賞した岐阜県出身の大下彩楓さんが担当し、三星毛糸が生地提供した。愛知県出身や東海地方にゆかりのあるキャストも多く出演する。
岩田社長はプロデューサーの竹田太郎氏(フォワード社長)から取材を受けた際、「作り手の〝リアル〟や〝本物〟を映画に残してほしいと伝えた」。「過去にはレピア織機がシャトル織機として伝えられるなど、間違った情報が発信されることもあった。今回は竹田氏にひつじサミット尾州の参加企業と会ってもらい、企画段階で作り手の思いを伝え制作過程から関われた」と語る。
同映画は東海地方の魅力を映像化して伝えるプロジェクト「シントウカイシネマ聖地化計画」の第1弾。毎年、東海地方で撮影した映画を制作し、全国公開することでロケ地が「シネマの聖地」となることを目指すもの。
第1弾は一宮市、愛知県の後押しや文化育成に力を入れる地元企業の支援を得て、4年かけて実現した。昨年行われた「BISHUFES」(ビシュウフェス)に合わせ10~11月に撮影し、製作費は1億3000万円。
竹田氏は愛知県春日井市出身で「景気の良かったガチャマン時代から尾州産地を知っていた。三星毛糸や尾州ファッションデザインセンター(FDC)で産地の後継者問題などを取材した」と話す。
10月11日から東海地方で先行公開、18日から全国約100の映画館で公開する。岩田社長は「10月25日から始まるひつじサミット尾州でぜひ聖地巡礼してほしい」と話し、「中長期的には、尾州産地に興味を持って働く人が増えてほしい」と期待を寄せる。