エプソン販売は、同社のデジタル捺染機「Monna Lisa(モナリザ)」シリーズを体感してもらうファッション・繊維業界向けのMonna Lisa ソリューションセンターバスツアーを3月25日に実施した。ブランドオーナー、アパレル商社、デザイナー、製品OEM(相手先ブランドによる生産)に関わる業界関係者らを対象に、セイコーエプソンの富士見事業所(長野県富士見町)へ招待した。先月発表した顔料インク搭載の新機種で顔料プリントを実演し、エプソンとともに創造するファッション産業のビジョンをアピール。テキスタイルデザインの表現やビジネスモデルの可能性を広げられ、サステイナビリティー(持続可能性)にも貢献するエプソンのソリューションに、ツアー参加者から高い関心が集まった。
■在庫の無駄なくす新たなビジネスモデルに
セイコーエプソン富士見事業所には「ソリューションセンター富士見」があり、Monna Lisaシリーズを使ったデモプリントや、プリント工場さながらに前処理、後処理の蒸し・洗いといったテキスタイルプリントの一連のプロセスを見ることができる。エプソン販売は定期的にバスツアーを開催し、アパレルビジネス関係者に向けたデジタルプリントの認知向上に取り組んでいる。今回のツアーには、大手セレクトショップ、スポーツアパレルメーカー、生地コンバーター関係者など約30人が参加。東京・新宿を出発したバスは小淵沢での昼食ののち、昼過ぎに富士見事業所に到着し、話題と内容が盛沢山のツアーをスタートした。
現地では、プリント実演の前に、Monna Lisaの特長やMonna Lisaでテキスタイルプリントをするメリットを紹介。実際にMonna Lisaプリンターを導入している企業として、美研繊維(京都市)、妙中パイル織物(和歌山県橋本市)が登壇した。美研繊維はMonna Lisaプリンター計5台を導入、オリジナルファブリックを使った雑貨のブランド「あそ美心」などに活用する。妙中パイル織物は主力だったカーシートが減少する中、Monna Lisaを導入してベルベットへのプリント技術を磨き、ファッション用途へのシフトを進めている。
また、セミナーではエプソン販売と、アベイル、ECOALF(三陽商会)、フクルが進めるアパレル3Dソリューション×無在庫ビジネス構想「バーチャル・パーソナル・オーダー」Virtual Personal Order(VPO)を紹介した。Virtual Personal Order(VPO)は、3Dバーチャルサンプルを企画できるアベイルが扱うソフト「ブラウズウェア」とMonna Lisaを組み合わせることで、在庫レス販売を実現する仕組み。
昨年6月に実証実験として三陽商会が展開するサステイナブルファッションブランド「ECOALF(エコアルフ)」でカスタムオーダーのプリントワンピースを販売し、今年はポケットTシャツのカスタムオーダーを実施している。三陽商会 事業本部コーポレートブランドビジネス部エコアルフ課長兼エコアルフ・ジャパン取締役の下川雅敏さんは「サステナブルブランドが日本で受け入れられるため、Monna Lisaのプリントで楽しさや価値を提供できないかと考えた。もう一つはアパレル業界の問題を変えていくために無駄のない受注生産に取り組みたかった」とVirtual Personal Order(VPO)に参画した背景を語った。
今回からVirtual Personal Order(VPO)にフクルが加わったことで、服作りにおける縫製の機能とネットワークを構築し、「適時・適量・適価の服作り」をさらに推進する。Monna Lisaを軸に広がるVirtual Personal Order(VPO)のビジョンに共感するアパレル企業の参加を呼び掛けるなど、引き続きアパレル企業との取り組みを強化する。
■デジタルプリントでサステイナビリティーを進化させる
デモプリントでは、エプソンが力を入れている顔料プリントの特徴をアピールした。通常の染料プリントでは生地に使われる素材ごとにインクの種類を変える必要があり、さらにインクを生地に定着させるための蒸し工程や、最後に洗い流してセットする仕上げ工程が不可欠だ。これに対し顔料プリントは、綿とポリエステルのような現在主流の複合素材にも対応し、素材の種類を気にせずプリントすることができる。さらに後工程も基本的に乾燥させるだけで済み、染料プリントと比べて水使用を約96%削減することができる。(※注1)
(※注1)セイコーエプソンがフルハシ環境総合研究所に委託調査した「デジタル捺染の直接投入水量報告書(2024年1月)」より。アナログ染料プリントとMonna Lisa顔料プリントのプロセスを比較した際の、巾1.5mかつ300mの織物を捺染する場合の直接投入水量。使用環境や測定条件などにより数値は変動します。
ファッション産業による環境汚染や環境負荷は今、世界的に大きな問題となっており、UNCTAD(国連貿易開発会議)によると「ファッション産業は世界で2番目に環境を汚染している産業」とされている。特にファッション産業における水使用は500万人分の一年分の生活用水に想定する930億立方メートルを使用し、解決が急がれる大きな環境課題となっている。(※注2)
(※注2)「国連がファッショナブルでいるための環境コストを浮き彫りにする取り組みを開始」 |国連ニュース (un.org)を参照。
テキスタイルの生産工程においても、通常は染色やプリント時には多くの水を使用し廃水処理にかかる負荷も大きいが、Monna Lisaの顔料プリントに置き換えることでこれを大幅に抑制でき、サステイナビリティーに貢献できる。生産プロセスの環境負荷を抑えられることに加え、Virtual Personal Order(VPO)によって在庫の無駄や売れ残りのリスクを減らし、ビジネスとしても持続可能性を実現できるのが大きなポイントだ。こうしたMonna Lisaの特徴は参加者からも大きな関心を集め、「顔料プリントでこんなに水を使う量を減らすことができることを初めて知った。素材そのものだけでなく、ものづくりのプロセスという観点でもサステナブルな取り組みができる点はとても興味深い」とといった感想が聞かれた。
伝統工芸とファッションのコラボレーションによるブランド「HIRUME」をプロデュースする生駒芳子さんは初めてツアーに参加し、「実際にプリントのプロセスを見ることで、水をいかに使わないかがわかった。Monna Lisaのプリントを活用し、江戸小紋のような伝統柄をモチーフにしたアウターなんかが出来そう」と製品のイメージをふくらませた。
参加者は多くのプリントサンプルを手に取りながら、Monna Lisaのプリントの表現力や可能性を体感。参加者からは「様々な生地やデザインのプリントサンプルを見ることができてとても参考になった。特に混紡生地にプリントができる点は魅力的。インクジェットプリントは高いというイメージを持っていたが、在庫リスクが軽減でき、かつ混紡生地へのプリントで商品企画の幅が広がるなど、トータルの採算で考えるとメリットがある」といった声が聞かれた。
今回のバスツアーではネットワーキングも重視し、登壇者と参加者だけでなく、参加者同士が交流しあえる時間を設けた。実際に参加者同士が名刺交換して交流する様子が見られ、これを機会にコラボレーションを考え合う参加者もあった。
エプソンは家庭用やオフィス向けのインクジェットプリンターで世界的に高い認知度を持つ。プリントヘッド、プリンター本体、インク、ソフトといったトータルの技術を組み合わせた総合力に強みを持ち、近年はこのノウハウを生かした産業分野の開拓に力を入れている。デジタル捺染もその一つで、欧州、米国、アジアといったグローバルにMonna Lisaシリーズを販売し、プリンターだけでなくソリューションを含めた開発を強化している。
昨年の6月にイタリア・ミラノで開かれた繊維機械見本市のITMAでは大型ブースを出展し、顔料プリントによるソリューションや、プロトタイプを含む新しいプリンターのコンセプトを披露した。
ここで出品した新機種「ML-13000」は4月中旬から国内で販売開始を予定している顔料プリント専用機で、プリントと同時に前後処理ができるサステイナビリティーと効率生産を追求したモデルだが、今回のツアーではいち早くこの新機種でのプリントデモを行った。
搭載する顔料インクはCMYK(シアン、マゼンタ、黄、黒)に赤、緑、オレンジを加えた7色で高い色表現性を確保する。さらに前処理剤、オーバーコート剤、発色剤の三つの機能性インクを搭載し、これまでプリントと別工程で必要だった前後処理が1プロセスで可能。前処理剤で生地にインクを定着させ、オーバーコート剤と発色剤で堅牢性と発色を高められる。
最大プリント幅は1.85メートル。生産スピードは900×600dpiの3パス(重ね刷り)モードで1時間87平方メートル、1200×600dpiの4パスで63平方メートルだ。
生地プリントだけでなく、エプソンの総合力を生かした小売・アパレル業界向けのソリューションも強化している。エプソンの印刷技術を使った紙製の店舗ディスプレー、紙製什器・テーブルといった店舗装飾で、従来のプラスチック製などの置き換えで廃棄物を減らすことができる。
ビームスのメンズカジュアルブランド「ビームスプラス」が今年1月にパリで開催した秋冬物の展示会では、パネル写真の代わりにテキスタイルにMonna Lisaで写真プリントを施し、会場にディスプレーした。持ち運びのしやすさからテキスタイルによる写真展示に着目、日本での展示会にも利用し、最終的にはトートバッグなどノベルティーに活用する計画という。
エプソンは2025年に向けた長期ビジョン「Epson 25 Renewed」で、「『省・小・精の技術』とデジタル技術で人・モノ・情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する」ことを目指し、「環境」「DX」「共創」をキーワードに掲げる。デジタル捺染事業でも、アパレルの生産プロセスにおける水使用の削減、大量生産による廃棄ロス削減といったサステイナビリティーに貢献し、デジタル化による効率生産や、ネットワーキング作りへの貢献などに取り組む。
【お問い合わせ先】
エプソン販売株式会社
産業機器営業部
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