エストネーション 藤井かんなウィメンズディレクターに聞く コロナ禍の現状と今後

2020/06/01 06:30 更新


藤井ウィメンズディレクター

 20年春夏は「適時適量適品」を合言葉にディレクションしました。気候などに合わせて必要な服を適量作るという考え方です。2年ぐらい前から議題に挙がっていたテーマですが、大田(直輝エストネーション)社長が大方針を出して進めてきました。温暖化が進み、SDGs(持続可能な開発目標)や燃やさないという考え方がどんどんリアリティーを増しているなか、コロナが追い打ちをかける形になった。温暖化もコロナも同じ流れの中にある。ファッションも独特のサイクルを見直し、スリム化しなさいということなんだと思う。20年秋冬は品番数を減らす方向です。

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 エストネーションの客層は幅が広く、いろんなシーンを持つ大人のお客様が多い。単純にオンとオフだけではありません。TPOに応じて、着る服を変えるゆとりのある人も多い。20年秋冬は、品番数を削りつつ、シーンや趣味嗜好(しこう)、テイスト、生活の仕方をより具体的に設定し、そこに目掛けた商品を細かく想像しながらMDを組むことに注力しています。

 具体的なイメージをつかむために、客層マップを作りました。例えば、モード層の中にも細かいカテゴリーがある。そのスタイルを象徴するわかりやすい写真をみんなで出して、スタイルやイメージを明確化しました。それをセットしたことで、バイヤーからデザイナー、MD、店のスタッフ、ECチームまでスタッフみんなの目線を合わせることができた。コンサバ層やカジュアル層の中にも可視化したイメージをセットしています。

 さらに生活スタイルや年収、世帯年収、居住エリア、家族構成、仕事などをチェックして構成したペルソナ設定もしっかり行っています。それと客層マップをリンクさせて、その人物像を明確にしました。こうすることで、そこにはまらないものは取り扱わなくなりますし、どういう風に客に提案したいかが明確になった。単純に品番数を削るだけでなく、消化率を上げるという目的もすごくある。似たような服ばかりになるのを避けたいという気持ちもあった。これらは段階的に進めてきたのですが、20年秋冬から活用を始めました。

 供給過多だから、在庫を残してセールをやらなきゃいけないんです。メゾンブランドはプレからメイン、カプセルまでいくつもコレクションを発表し、やりだしちゃったから止まれない状況がずっと続いていました。在庫の焼却処分をしないなどのファッション協定も決まっていたので、減らす傾向はありましたけど。コロナを機に、仕入れの削減もやっていかなければいけない。サイクルを変えていきたいです。

 適時を捉えるために、気候や気温に合わせることも大事です。秋冬はジャストで着られる素材の服に力を入れています。通常はメゾンブランドのプレフォールが6月に、秋冬商品は8月に立ち上がりますが、実際は10月まで暑い。秋冬の気分を取り入れたいけれど、暑くてすぐには着られません。であれば、毛足のあるニットは、10月以降に出そうね、と。その代わりに、透けるハイゲージニットやナイロン混のニットを立ち上がりに投入する。うちでは「ソリッドニット」と呼んでいます。

 アウターも同じです。最近は11月にならないとコートは売れません。でもアウターは必要。コートを着る前のアウターとして、コート代わりに着られるジャケットなどを9月、10月に強化する予定です。

 六本木店はどーんと大きくてなんでもある店ですが、同じようなものがなんでもあってはいけない。同じ白いTシャツでも違うものを提案できなければ。客層マップを元にその人たちを想像して作っていくと、素材や袖の分量、ネックの空き具合まで変えやすい。そういう特性が大切だと思う。エストネーションは、女っぽさ、華やかさが好き、トレンドが好き、コンサバ。そういった特性があると思う。ちゃんとしていて、クラス感があるのが好き。それがブランドの看板になっていると思うし、選択肢がたくさんある世の中なので、ブランドらしさはより大事になると思う。今回みたいなことが起こると、マインドの変化があると思うので、マップは毎シーズン更新します。その作業は結構アナログです。

 今は21年春夏の全体のディレクションに取り掛かっています。キーワードになるのはベーシックやパーマネント。何があろうとも揺るがない、定番的でずっと着られる服がより求められるようになるんだと思う。気候に左右されないシーズンレスなアイテムともリンクします。コロナ禍で多くの人が〝断捨離〟しましたよね。みんな、生活自体をちょっとコンパクトにしたいんだと思う。

 だから長く愛せる、ずっと好きっていうことを軸にしたい。ではエストネーションが提案するベーシックとは何か。女っぽいベーシック、クラス感のあるベーシックなどを軸にしながら、組み立てたいと思う。

 今回のコロナで、アスレジャースタイルの人が増えたことも気になっています。レギパンにビッグなフーディーを着て、キャップかぶって、トレンドとミックスしている感じ。そのスタイルのままスーパーに来る人が増えました。ご飯をちゃんと作る人も増えたのでは。引っ越しして住まいを心地良くしたいという人も多そうです。習慣化したことは今後もそのまま残ると思います。

 そうなっていくと、ファッションってどういったところに存在意義があるんだろうと考える。結構、繊細です。そういう価値観の変化に対しては、ものすごいアンテナを立ててないといけないなとすごく思っています。

■現在のエストネーションについて

  • 割引や販促手段を積極的に活用して、在庫の早急な消化・調整を図るとともに、需要をシビアに予測して調達を行う。
  • 自社ECは前年比50%増。男女ともに売れているのはシンプルなカットソーやコンフォートサンダル。ウィメンズはウェブ会議用にもおすすめの上半身が華やかなボリュームブラウスが好調。家で使うセンサーミラー、炭酸水サーバー、インテリアグッズも人気。
  • ウェブ上でシークレットセールなどを予定。

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