“技あり”展示会、あの手この手

2015/11/09 11:58 更新


【センケンコミュニティー】商品を並べるだけではもったいない!

会場の造作も大事なメッセージ

 各社が年に数回開く展示会。せっかく多くの方に来て、見ていただく機会なのに、ただ商品を並べるだけではもったいない! そう考え、あの手この手で会社の姿勢を伝えようとしたり、来場者を楽しませようとする企業が目立ちます。今回は、そんな企業の中から力を入れて作り上げた展示会をご紹介します。


ジュン/コンテンツの“EXPO”

◆丸安毛糸/物作り体験通じ「ラブニット」

◆栗原/和空間で日本製品アピール

◆東洋紡STC/“おもろい”機能素材展

◆YKK/伝統の舞台国技館で開催

◆エトワール海渡/社員モデル&DJでショー


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ジュン コンテンツの“EXPO”

 毎回趣向を凝らした展示会が業界内でも話題となるジュン。前回、6月に行った15~16年秋冬向け展示会は「JUNEXPO ’15 AW」と題し、様々なコンテンツを盛り込んだ。新作の商品を並べるだけでなく、SNS(交流サイト)と連動したり、スペシャルゲストを招いたトークセッションを開いたりと「ライブ感のある総合展示場」をイメージした演出で来場者を楽しませた。

 サブテーマは「美味しい未来、はじめましょう」。「美味(おい)しい=創造的で豊かな」と置き換え、会場内にはクリエーティブで未来を感じさせる仕掛けがいっぱい。SNSを活用した仕掛けの一つとしてソーシャルボードを設置。特定のハッシュタグを付けて展示会で投稿された画像をまとめてタイムラインで表示した。

 トークセッションでは、藤原ヒロシさんやムラカミカイエさんらをゲストに迎え、佐々木進社長や社員がジュングループのビジネス戦略についてのビジョンを語った。

 次回16年春夏展は、今月末に開催する予定だ。

クリエイティブセッション
佐々木社長と藤原ヒロシさんによるトークセッションは、立ち見が出るほど多くの来場者が会場を埋め尽くした
フードを集積したおもてなしブースはEXPOのフードコートをイメージ。各国の名前を付けたインターナショナルな「BENTO」を提供した
フードを集積したおもてなしブースはEXPOのフードコートをイメージ。各国の名前を付けたインターナショナルな「BENTO」を提供した
「ル・ジュン」のブースではインスタグラムを活用し、イラストをバックに撮った写真をその場でシールにして来場者にプレゼントした
「ル・ジュン」のブースではインスタグラムを活用し、イラストをバックに撮った写真をその場でシールにして来場者にプレゼントした

丸安毛糸 物作り体験通じ「ラブニット」

 ワインダー、撚糸機、編み機、リンキング機――。ずらりと並ぶ繊維機械に黒山の人だかりができている。工場ではない。東京・両国の丸安毛糸が10月に開いた展示会での一コマだ。

 同社は、ニット用意匠糸、ニット製品を手掛ける。創業60周年の節目に「ラブニット」を掲げ、その一環として、展示会に編み機などの体験コーナーを設けた。「展示会は物を売るだけでなく、メッセージを伝える場」と岡崎博之社長。製造工程の理解を通じ、ラブニットに込めた「ニットの楽しさに触れ、愛着を持ってもらいたい」という思いを発信する。

 機械は、サンプル制作に社内で使用しているもの。ニット糸や編み地、ニット製品の傍らで、それらに関わる機械に触れることができる仕様だ。普段目にすることのない機械に、来場者は興味津々。社員の手ほどきを受けながら、物作り体験を楽しんだ。「未来の担い手にも知ってほしい」と10月展では初めて、学生に解放する時間も作り、服飾専門学校の学生約100人が訪れた。

併設の「ニットキッチン」には社員がブログで紹介した手編み作品や編物グッズが一堂に。「楽しいねって皆さん言ってくださるんですよ」と岡崎社長
ハンドルを左右に動かして編み地を作る家庭用編み機に挑戦した来場者。1列ずつ編まれて生地が形成されていく様子に感嘆の声が上がる
併設の「ニットキッチン」には社員がブログで紹介した手編み作品や編物グッズが一堂に。「楽しいねって皆さん言ってくださるんですよ」と岡崎社長
併設の「ニットキッチン」には社員がブログで紹介した手編み作品や編物グッズが一堂に。「楽しいねって皆さん言ってくださるんですよ」と岡崎社長
横編みニット特有の縫製方法、リンキング。編み目の一目ひと目に針を刺す細かい作業に「こんなに大変なの!?」と驚嘆の声
横編みニット特有の縫製方法、リンキング。編み目の一目ひと目に針を刺す細かい作業に「こんなに大変なの!?」と驚嘆の声

栗原 和空間で日本製品アピール


 帽子の栗原の展示会は、商品のテーマに合わせて会場を設営している。9月に開いた16年春夏向け展示会では、日本製に焦点を当てた商品とリンクさせ、和のテイストを前面に出したスペースを作った。

 小千谷縮、古橋織布など日本製の生地を使った商品を集積し、生地についても丁寧に説明。倉敷帆布や岡山・倉敷産のデニムなどは、商品と一緒に生地ロールを展示して見せた。展示スペースの壁はしっくい風にするなど細かい部分まで気が配られており、会場の造作は商品を分かりやすく、楽しくアピールすることに一役買っている。

 会場内には、和風カフェも登場。抹茶ラテなど和のメニューも揃え、メニュー表も和紙という徹底ぶりだ。おもてなしに余念がない。

日本製の生地とその生地を使った商品を一緒に展示
日本製の生地とその生地を使った商品を一緒に展示
会場内に登場した和風カフェ
会場内に登場した和風カフェ

東洋紡STC “おもろい”機能素材展

 笑いのセンスが光る東洋紡STC。徹底して作り込まれた世界が特徴のスポーツ素材展「シュアスポーツ展」は、開催を待ちわびる人も多い素材業界の名物展示会だ。

 素材コンセプトと、社会背景を融合したテーマ設定が特徴。イージーケアのニットシャツ「ゼットシャツ」を提案した11年のテーマは、大ヒット映画をヒントにした「オールウェイズ堂島浜二丁目の夕日」。社員が書いた習字を飾り、レトロな机を設置。会場を授業参観日の教室に変え、父兄役のマネキンにシャツを着せPRした。

 年々来場者も増え、展示会の参考にしたいという同業他社からの声も。「最近は周囲の期待がプレッシャーで」と企画担当者はうれしい悲鳴をあげる。軽快なユーモアの裏には「東洋紡は真面目な会社で、素材も難しいと思われがち。面白い展示会で、多くの人に魅力を知って欲しい」という熱い思いが隠されている。

年30回を超える展示会企画は全て社内で。素材企画やマーケティングも同じ部署が担っているため、面白く、かつ精度の高い展示会が可能だとか
年30回を超える展示会企画は全て社内で。素材企画やマーケティングも同じ部署が担っているため、面白く、かつ精度の高い展示会が可能だとか
入り口には木の表札が。壁には営業担当が書いた習字や時間割も飾られるなど、部署を超えて細部まで作りこむ
入り口には木の表札が。壁には営業担当が書いた習字や時間割も飾られるなど、部署を超えて細部まで作りこむ

YKK 伝統の舞台国技館で開催

 10月、東京・両国にある国技館を展示会の東京会場に選んだのはYKKだ。国技である相撲の名勝負の数々を生んだ舞台で、ファスニング商品を披露した。

 今回は96年の第1回展から数えて20回目という節目。猿丸雅之社長は「日本の文化、伝統のシンボルといえる館。この館に負けないような商品、技術を皆様に紹介したい」と語った。

 今回は商品の展示にとどまらず、商品の取り扱い方や厳しい品質管理体制も紹介。物作りに妥協しない姿勢を改めて会場で体現した。また、各界の著名人を招いたトークショー、学生対象のファッションコンテスト「第15回ファスニングアワード」の授賞式などスペシャルイベントも多数開いた。

中央のやぐらの下では新しい技術による商品が多数展示された
中央のやぐらの下では新しい技術による商品が多数展示された

エトワール海渡 社員モデル&DJでショー

 現金卸のエトワール海渡は、〝社員DJ〟や〝社員モデル〟の個性を生かし、シーズントレンドに合わせたコーディネートを提案するファッションショーを開催している。ショーのプロデューサー兼DJを担うのは、営業戦略推進室次長の古橋孝之さん。現在もマイケルジャクソン・トリビュートイベントを中心に青山、銀座かいわいでゲストDJとして活躍する現役DJだ。

 今年9月に行った15年秋冬向けショーは、70年代テイストがメーンテーマ。同社本館のフロアに臨時的に設営したショー会場の壁にはデビッド・ボウイ、ブロンディ、ドナ・サマーらのアルバムジャケット150枚が飾られた。出演するモデルは社員で、ショーの1週間前からリハーサルを重ねる。「最初は動きがぎこちないが、モデルたちは自分にダメ出しをしながらどんどん良くなっていく」(古橋さん)。

 当日のショーでは普段、商談をしている社員がモデルとしてさっそうと現れることもあり、なじみのバイヤーから声援が飛ぶ。ショーの終了直後にはハンガーラックがサッと並んで即、受注会に切り替わる。興奮冷めやらぬなか、多くのバイヤーが積極的に買い付ける。「社員を巻き込んだショーはファッショントレンドやMDに対する意識を全社的に高める効果もある」として、今後も継続して開催する考えだ。

ライブ感を生かした受注会はバイヤーとの一体感を生む
ライブ感を生かした受注会はバイヤーとの一体感を生む


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