【記者の目】ECモールが挑む服の選び方革命 ITがファッション価値を変える リアルデータ取り込みリコメンド精度向上へ
ECモールがITを駆使して、消費者の「服選び」変革を進めている。「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイは、個客の体形データが取得できる「ゾゾスーツ」の大量生産・配布にめどをつけ、夏からPB「ゾゾ」を本格拡販する。ECでの購買の大きな課題だったサイズ問題を解消し、個客データから割り出せる着こなし提案も大きく進歩させれば、一般消費者の服を選ぶハードルを下げ、ファッション市場規模が広がるとする。他のECモールも服のEC購買障壁解消に挑むとともに、客のオフラインの行動データの取得を積極化し、リコメンド精度を高める動きを活発化している。ECモールによるIT開発が一般消費者の洋服の選び方を変え、ファッション消費自体を拡大させる役割となっていくのか注目だ。
(疋田優=東京編集部専門店・EC担当)
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◆服購入の障壁解消なるか
「服の買い方・選び方・作り方で革命を起こす」――スタートトゥデイの前澤友作社長は4月27日に発表した中期経営計画で、「めざすのは、試着なしで自分に合った服が買えること。そしてベーシックアイテムはすべてゾゾで揃うこと」とし、ネットSPA(製造小売業)で世界トップに躍り出たいと語った。
昨年末、ITスーツでの体形自動測定・最適サイズPB販売開始のニュースは業界内外で大いに話題になった。スーツ配布予約の多さに生産が追いつかないなど混乱もあったが、体形データ取得の仕組みを一部アナログ化し、大量配布にめどをつけた。
体形データ測定に積極的でない人もいるだろうが、判明した体形データによる個客への最適リコメンド化の実現が、人々の服の選び方を変えるかどうかは非常に興味深い。さらに今後、体形と商品への満足度の関係性を機械学習し、分析データをデザインやパターンに反映させ、「服作り自動化」が実現できるかも見逃せない。
◆買いやすいECへ着々
多くの一般消費者は、服選びを想像以上に面倒な作業ととらえている。サイズ、素材の風合い、似合う色柄、コーディネートの仕方までがかなった商品を探すのは、センスと時間が必要。そんな中で、時間・場所を問わないECサイトは、カタログ代わりに閲覧されるほどに浸透し、「買い場」を変えた。
しかし、「ECで服購買に行き着かない」傾向はまだ強い。試着できないリスク、比較検討のストレスが思った以上にある。こういった障壁を解消し、ECでの洋服購買をいかに一般化させるかに、各ECモールが挑んでいる。
「ショップリスト」を展開するクルーズは、前期の第4四半期売上高が2ケタ成長した。伸長の要因は、顧客のEC購買でのギャップ解消。特に前期は画像のリッチコンテンツ化を進め、購買した時のイメージと実物商品のギャップを解消した。また、商品在庫量から商品表示順序を自動化するアルゴリズムも開発し、売り上げ最大につなげている。
今年3月にはAI(人工知能)を活用した画像解析レコメンド機能を導入。ユーザーが閲覧している商品画像をAIが解析し、イメージの近い商品をレコメンドする。さらにウェブマガジンを創刊し、トレンドとコンテンツ配信して、客のリアルな反応データの分析・活用も開始した。
総合モールの楽天市場は前期売り上げが、3兆4000億円で前期比13.6%増となった。もはや日用品や食品は日常的にネットで購買する傾向が強まる中、ファッション分野での「ネットではまだ買えない」「合うものが見つけられない」という障壁を下げるため、17年秋から画像解析AI「イメージサーチ」を導入。消費者が撮影した画像や雑誌記事などの類似画像をAIが解析し、楽天市場で販売している商品情報を提示する。会員のリアルな行動データも取得し、4月には初めて夏のファッショントレンドと、楽天市場出店社を組み合わせた着こなし提案も発表した。ITとデータ分析で会員にとって「買いやすさの実現」を急ぐ。
◆ITが勝ち残りの要件
ECモールがプログラマーやエンジニアを抱え、最新ITを駆使してECサービスに創造性を発揮しようとする動きは、ブランドや小売店にとってチャンスか、脅威か。
ECモールはこの十数年、消費者の利便性に応えるとともに、ブランド・ショップの事業発展を支えるプラットフォームとなった。プラットフォームの価値を支えるのは「ブランド・システム・物流」が大きな要素のため、ブランドとの共存共栄の精神は揺るがないだろう。ただ、「服選び」の変革は、実店舗価値に影響を与えそうだ。ECで購買する比率が実店舗を上回るまではいかないが、最適な服を最短で見つけて買いたいというニーズは、今後も増すだろう。
そこで注目されているのが「ニューリテール」(オンラインとオフラインの融合)戦略。スマホのGPS(全地球測位システム)機能、ジオフェンス(位置情報を利用して自動で動作するアプリ)、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)のショッピング、ロボットの接客活用、AIによる需要予測などが実店舗革命のテーマになる。しかし、ブランド・小売店がテクノロジー開発人材や組織を社内に置くのは、なかなか事業コンセプトやコスト面からも難しい。ECモールのIT駆使を自店価値向上にどう活用するかも重要な経営判断になっていくだろう。
【繊研新聞本紙 2018年05月14日付から】