【記者の目】商社の繊維事業 旧来型事業での成長は限界 閉塞感を新モデルで打ち破れ 新たな収益源創出が鍵
第4次産業革命といわれる今、商社の繊維事業は大きな転換点を迎えている。デジタル技術を取り込み「イノベーションを起こす」ことは、時代の流れについていくという点では重要だが、むしろこの10年、20年かけて大きく育ててきた国内のアパレルや小売業に向けたOEM(相手先ブランドによる生産)事業では今後の成長が描けないことが大きい。もちろんEC市場の急拡大など商流の変化に対応するためでもある。OEMに次ぐ新たなビジネスモデルを生み出し、収益源に育てることが競合から一歩抜け出すには必要だ。
(高田淳史=西日本編集部素材・商社担当)
繊維だからこそ必要
伊藤忠商事繊維カンパニーは今期からスタートした新3カ年経営計画で、「次世代型ビジネスへの転換」を掲げる。デジタル技術など新技術の活用やEC関連など新分野などに集中投資する。「我々のビジネスはまだ従来型が中心。繊維は景気が良くても成長が見込みにくい。だからこそ思い切っていち早く新分野に飛び込んだり、新しいものを取り込むことが必要」(小関秀一繊維カンパニープレジデント)との問題意識だ。「サステイナブル」(持続可能性)などを切り口に新素材を開発したり、ファイバー工場への出資を検討するなど「いくつかの案件で具体的に進めている」。
プラットフォームの構築がひとつの鍵。伊藤忠繊維カンパニーは各事業会社が個別で進めているEC事業で「伊藤忠として共通プラットフォームを作れないか」との検討に入った。同カンパニーの今期純利益目標は320億円(IFRS)。次世代型ビジネスはまだ利益のわずかに過ぎないが、「この3年で大きく変わる可能性がある」と3年後には純利益の3割を次世代型事業で占めたい構えだ。
「ウェアラブル」を切り口に新たなプラットフォームの構築を狙うのが帝人フロンティア。スポーツやヘルスケア分野などでウェアラブル製品の開発に取り組むため、スポーツ分野に特化した身体運動計測・データ解析技術を持つスポーツセンシングと一緒に新会社、帝人フロンティアセンシングを立ち上げた。ウェアラブル市場に本格参入し、帝人フロンティアグループ全体でウェラブルの製品開発、販売を強めスポーツ、ヘルスケア、ワーキング分野などで2025年に100億円の売り上げを狙う。単に製品を作り、販売するだけでなく、独自のプラットフォームを構築する点が注目だ。「IoT(モノのインターネット)ウェアラブルプラットフォーム」を作り、大学・研究機関やAI(人工知能)企業、IT企業、スポーツ、医療介護関連などとの協業や連携を進める。同時にスタートアップ企業への出資なども検討し、事業を拡大する。
この数年は横ばい
この間商社の繊維事業全体が大きく落ち込み続けているかといえば、そうとは言い切れない。繊研新聞社は毎年商社の繊維事業業績をアンケート形式でまとめている。この10年間のアンケート協力企業の繊維事業単体売上高合計は表のとおり。リーマンショック後しばらくは年率10%近くの売り上げ減が続いたが、11年あたりからはほぼ横ばいで推移している。百貨店アパレルなど主要取引先が大きく売り上げを落とし、日本の繊維・ファッション業界全体が縮小する中でむしろ健闘しているといえる。単体の売上高総利益率を見ても回答企業平均で9%台を維持している。OEMからODM(相手先ブランドによる設計)に移行して収益性を高めたり、生産シフトを進めるなど様々な手を打ち、踏ん張っているためだ。ただ国内、あるいは既存事業にしがみついていて今後の成長が見込めないことは明らかだ。
国内事業が大半なだけに、海外市場開拓は欠かせない。八木通商は、これまで日本で培ってきたブランド事業の舞台を世界に広げる。この3~4年で約100億円を欧州に投資した。伊藤忠はベトナムのビナテックスなどとの連携を強めて生産基盤を充実した上で、欧米の大手企業を再度攻める。デジタル技術などを活用した次世代型ビジネスやプラットフォームの構築、海外、非衣料・非繊維事業の強化など各社が強みを生かした新たな収益源を見つけ、育てることが閉塞感を打ち破ることにつながる。
各社それぞれの強みを生かしたビジネスモデルとあえて書いたのは、横並びでは結局は問題解決にならないからだ。参入障壁が低いOEMは過当競争に陥り、原価低減要求がさらに強まったことで収益性の限界を招いた。新モデルを生み出したとしても、寄ってたかってパイを食い合えば、それは単に戦いの場がOEMから別の舞台に移るだけで「プレーヤーが多すぎる」状態は解消されない。OEM市場がすぐに消えるわけではない。OEMがまだ維持できている間に、各社それぞれが自社の強みを生かした、つまり最初から差別化できている新モデルを創出できるかが成長を左右する。
【繊研新聞本紙 2018年05月21日付から】