■筑後の地域資源をどう生かすか
福岡市内から、電車やバスを乗り継いで約1時間半。白壁の古い街並みで知られる福岡・八女に、筑後地方の物作りに焦点を当てたアンテナショップ「うなぎの寝床」はある。主力商品の久留米絣を使った現代風もんぺは、ECや卸でも売り上げ好調だ。この間、地方のブランドやもの作りが話題になることは増えているが、実際にうまくいっているケースはそう多くない。数少ない成功モデルとして、同店や社長の白水高広さん(31歳)は注目を集めている。
■思い入れでなく
大学時代は工学部で建築や都市計画を学んだ。卒業後は、厚生労働省の「九州ちくご元気計画」のスタッフとして、地域の物作りをデザイン面などからサポート。3年間の活動を通して、福岡や東京には筑後の製品を売る店ができたが、地元にはない。そこで、12年7月に同店を開いた。
店から「車で1日で行ける範囲」の約70の作り手から、木工品や陶器などを仕入れている。売り上げの7割を占める久留米絣のもんぺでは、織元と組んでオリジナル商品も企画。作り手の思いを感じさせる商品ばかりだが、意外にも「作り手のためにといった意識や、思い入れはない」と話す。客観的に見て、「アンテナショップの機能を持つ場所が地域に必要だと感じた」。店はその仮説を検証するためのコンセプトモデルで、これは「実験」なのだという。
と言っても、作り手や製品に興味がないわけでは決して無い。「やり始めた以上はちゃんとやりたい」と、社内には絣に関する国内外の資料や、九州や世界各地の地域文化・衣料文化についての書籍がずらりと並ぶ。真摯(しんし)でニュートラルな姿勢が伝わってくる。
筑後は元々物作りが盛んな土地であるため、アンテナショップの形をとったが、「地域資源をしっかり見つめ、それに合ったアウトプットをすれば、他の地域でもできる」と言い切る。だからこそノウハウは公開している。「何かしらのモノを介して、その土地についてコミュニケーションする量を増やせば、お金は流通する(売り上げにつながる)」というのが実感だ。
もんぺのほか様々な筑後の物作りを集めた店内
■議論のきっかけに
オリジナルのもんぺは型数を絞り、在庫を持って型落ちさせずに売り続けている。もんぺ以外も含めた年間の全体売上高は1億800万円。「個人的な趣味や思い入れで事業をやっているのではないだけに、売り上げ増による社会的影響力の拡大が指標になっている」と話す。
背景にあるのは、「生産量を担保できなければ、作り手も残っていかない」という考え。年4回新作を出し、半年で値引きするファッションのビジネスモデルには、売り上げ拡大を目指す上で無理があると感じているという。
近年は、伝統工芸品のコンサルティングを請け負うことも増えてきた。その際、情緒的価値を主張する声と、商業的成功を求める声との間で板ばさみになることも多いという。「どっちが正しいとかはないので、どう折り合いをつけるか。議論をしていくしかないし、そのきっかけを増やしていくのが僕たちの役割だと思っています」
85年佐賀県生まれ。大分大学工学部建築学科を卒業後、「九州ちくご元気計画」で地域の商品開発やブランディング、企画などに携わる。11年5月に八女市で久留米絣の「もんぺ博覧会」を行ったところ、5日間で約2000人を集客した。その後も毎年継続し、開催都市も増やしている。オリジナルのもんぺは「ディー&デパートメント」などへの卸もしている。