ゴールドウインが、パラスポーツ用のウェア・装具の開発に力を入れている。富山県小矢部市にある研究開発施設「ゴールドウイン テック・ラボ」(以下、テック・ラボ)を拠点に、選手一人ひとりと対話を重ねながら、新しいアイディアを形にしている。時には最新のテクノロジーを駆使しながら、パラアスリートを保護し、パフォーマンスを高めるウェア開発に挑み続けている。同社がパラスポーツに注力する理由とは――。
■15年から活動を本格化
「スポーツ・ファースト」をタグラインに掲げ、スポーツを通じた豊かな暮らしの実現と社会の発展に寄与することを目指す同社にとって、パラスポーツ支援もその一環だ。特に、2015年に日本障がい者スポーツ協会とオフィシャルパートナー契約を締結して以降は、支援活動を本格化。その後、日本車いすラグビー連盟(16年)や日本パラ水泳連盟(同)、日本ボッチャ協会(17年)、日本障害者スキー連盟と同様の契約を交わし、ウェアの提供や大会協賛といったサポートを続けてきた。
21年8月から9月にかけて開催されたパラスポーツの国際大会では、車いすラグビー日本代表のウェア(カンタベリー)、競泳日本代表のウェア(スピード)、ボッチャ日本代表ウェア(ゴールドウインブランド)、車いすテニス日本代表の大谷桃子選手(エレッセ)用ウェアを提供し、選手の活躍を支えた。
■開発拠点は「テック・ラボ」
パラアスリート用のウェア・装具開発の拠点となるのは、ゴールドウイングループが17年に開設したテック・ラボだ。同施設には広大な運動ルームや3DCAD、人工気象室・人工降雨室などの先端設備を備えており、同じ建物内には縫製・加工部門もある。そのため、企画からテスト、縫製・加工までの全工程を一カ所で完結でき、専門スタッフが選手と対話を重ねながら試作品をテストし、その評価や要望をすぐに形にしてまた試すことができる。障がいの状態が選手によって異なり、体形やプレー動作もそれぞれ違うパラスポーツのウェア開発にとって、テック・ラボは最適な環境と言えるだろう。
企画から縫製・加工まで、すべてをその場でできる――。こうした強みを発揮できた一例が、車いすラグビー日本代表でキャプテンを務めた池透暢選手の装具開発だ。池選手は長年、障がいの残る左腕を保護し、腕の力を車輪に伝えられるようにするため、上腕から先まで6個の装具を付けてプレーしていた。しかし、素材も特性も違うものを6重に巻くため重く、車いすの操作にも影響が出ていたという。そこで日本車いすラグビー連盟のオフィシャルサプライヤーであるゴールドウインに開発を依頼した。
池選手がテック・ラボを訪問して驚いたのは、その開発スピードだ。要望を伝え、体形の測定や素材の検討をすると、「開発チームの方々と話しているうちに」すぐに試作品ができた。それをすぐに試着し、修正点を伝えると、またすぐに新たな試作品が完成。結果としてわずか数時間のうちに、「欲しいと思っていたものが形になった」。要望を反映した新しいサポーターが完成したことでプレーがしやすくなっただけでなく、装具を一つ少なくでき、軽量化も実現。疲れやすかった左腕の負担が軽減し、パフォーマンスも向上したという。
■課題解決に先端技術も駆使
テック・ラボでは、最新テクノロジーを駆使した開発も行っている。体をほとんど動かせないなど、重い障がいを持つ選手が少なくないボッチャでは、体形の計測や試着自体も選手には大きな負担になりかねない。そこで、計測では車いすに座ったままできるよう、スマートフォンを使った最先端の3Dスキャン技術を導入。身体計測時間を大幅に短縮した。さらにコンピューター上でウェアの着用状態を確認できる着装シミュレーション技術で試着回数も減らし、選手の負担を軽減した。
ボッチャ用ゲームパンツの開発では、19年の国際大会で話題となったラグビー日本代表ジャージーに使われた立体成型技術を転用。傷や褥瘡(じょくそう)になりやすいお尻部分を1枚の生地で、体形にフィットするよう曲面を作り、縫い目も無くした。
開発を担当したテック・ラボの久田涼平さんは、「立体成型加工は、大柄なラグビー選手のフィット感とデザイン性の向上を目的に採用したものだが、無縫製で立体形状を作るプロセスによってボッチャ選手の課題解決が見込めたため、この技術の水平展開を考えた」と話す。
■知見を一般ウェアにも生かす
同社がパラスポーツのウェア開発に力を入れるのは、取り組みの過程で得られる知見が、一般向けのスポーツウェア開発にも生かせると考えているためだ。
商品本部テック・ラボR&Dマーケティンググループ技術主査の中村寿さんは、「(パラ選手用ウェアの開発は)パーソナルな取り組みで、その中で得た知識やスキルは必ずしも汎用性が高いとは言えない。しかし、その特殊性が従来の常識やセオリーが通用しないような課題をブレイクスルーする、新たな着眼点や考え方を養える」と、そのメリットを指摘する。
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