【記者の目】エシカル消費は国産回帰を本物にするか 仏素材見本市に見た変化の兆し

2022/09/23 06:30 更新


 仏アパレルで、国内生産回帰の機運が高まっている。背景には物流コストの上昇、サプライチェーンの混乱といった日本とも共通する環境変化があるが、それ以上にエシカル(倫理的な)消費が強力な後押しになっている。長く着られる品質と透明性が重視され、「メイド・イン・フランス」が再び注目されている。これを受けて仏テキスタイルメーカーの業績も上向き、増産に乗り出した企業もある。仏の繊維産地は日本と同様、人件費の安い新興国への生産シフトで規模を縮小してきた歴史がある。エシカル消費は国産回帰を本物にする一助になるか。

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エコが購買動機に

 国際素材見本市を運営するプルミエール・ヴィジョン(PV)とフランスモード研究所(IFM)は、欧米5カ国7000人を対象に「エコレスポンシブルファッションにおける新しい消費者行動」調査を行った。

 同じ調査を行った19年と比較すると、消費者の環境保護意識への高まりは明らかだ。例えば、この1年で環境に配慮した衣料品を1点以上購入した人は有効回答数の65%で、19年から20ポイント増えた。購入金額は1年の衣料品予算の3分の1に及ぶ。加えて、回答者の90%が近い将来、衣料品を購入する際に環境に配慮した商品を選びたいと答えた。IFMはこれらの結果に対し、「コロナ禍が消費者の環境や社会に対する意識を高めた」と分析し、「エコレスポンシブルファッションは単なるトレンドではない」と強調した。

 では、環境に配慮した衣料品とは何か。「エコフレンドリーな衣料品を買う決め手になる一番大事な要素は」という単一選択の問いで、仏と米国の回答者が最も支持したのは「国内生産」(仏33%、米国42.6%)。次に続く「エコフレンドリーな素材(オーガニック、リサイクル生地、新しい繊維など)の使用」(24.4%、23.4%)や、「環境に優しい製造工程」(20.5%、16.7%)を大きく上回った。独、伊、英国でも、20%以上の回答者が国内生産を選び、エコフレンドリーな素材に次ぐ2位となった。

 資源やエネルギーを結集して生産される衣料素材は、環境問題の解決に貢献する手段として企業から選ばれることが多く、取り組みも大々的にアピールされている。それにもかかわらず、なぜエコ素材より国内生産に目が向けられているのか。

品質の高さと透明性

 仏テキスタイル企業は、「長く着られる服へのニーズが高まっている」と口を揃える。仏製の品質の高さや安心感に関心が強まっている。これに、コロナ禍前から急速に重みを増していたトレーサビリティー(履歴管理)の追い風が吹く。

 ブランドや小売りもメイド・イン・フランスの企画に注力している。仏プリントメーカーのスプリンテックスは元々、主に中国製の生機(きばた)にプリントしていたが、最近は仏製の生機を使うことが増えているという。価格は上がるが「需要はある」と言い切る。

下地も仏製のプリントを打ち出したスプリンテックス(新村真理写す)

 ファンシーツイード主力のジュール・トゥルニエは今年、最高業績を更新。「縫製まで全て地元で一貫したい」というニーズはコロナ禍前からあったが、ここにきてブランドの規模を問わず加速していると指摘する。

 ファンシーツイードとジャカード織物を手掛けるマリアケントも、需要をうまく獲得した一社だ。一時は断らなければならないほど注文が殺到し、今年に入って織物メーカーを買収、倉庫の増築で糸の備蓄を拡充して対応している。

 トレーサビリティーでは、法整備も進む。仏の循環経済法(AGEC)では23年1月から、販売される繊維製品の織り・編みや染色、プリント、縫製など各工程が行われた国をQRコード化し、消費者に開示することが義務付けられる。まず年間売上高5000万 ユーロ を超えるブランドを対象とし、今後売上高1000万 ユーロ 以上の企業に拡大していく予定だ。消費者が商品の購入時に十分な情報を得た上で選択できるようにするためで、「1工程だけ仏で作って、仏製とごまかすことができなくなった」と、より広い範囲で国産回帰が進むことを期待する声もある。

 日本でも国産回帰がたびたび話題に上るが、その論拠は海外の人件費高騰や円安、供給網の寸断など不安定な外部環境であり、一過性の取り組みになりかねない。稼働が回復しつつある今も、先の需要が見えないために人員補充や増産投資もしにくい。リスク回避を目的としたその場しのぎの国産回帰でなく、製販連携で需要獲得を見据えた計画的な国産回帰が目指せないか。仏のエシカル消費を巡る動きはヒントになりそうだ。


橋口侑佳=本社編集部素材担当

(繊研新聞本紙22年8月22日付)

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