和蘭随一!! 日本人のお弁当屋さん(宮沢香奈)

2015/10/05 16:06 更新




3年前、初めてオランダへ行った時、アムステルダムの中心地でありながら、夜の9時にディナーが食べられるレストランが全然見つからず、とても苦労した思い出がある。5軒連続で「キッチンクローズ!」と言われ、忘年会シーズンに渋谷界隈で予約もせずに居酒屋を探した時ぐらいのトラウマにまでなった。

それ以来、オランダに”食”を期待してはいけないと思っていた。しかし、ただ単にお店を知らなかっただけで、後になっていくらでも開いているレストランがあることを知った。

実際、現地に住む友人に連れて行ってもらったお店はどこもおいしくて、営業時間も遅くまでやっていた。やはりローカル情報はどんなガイドブックより確かで貴重ということだ。

 

 


そんなオランダで、昨年11月に友人がデリバリー専門のお弁当屋さんをオープンさせた。街並がとても美しく、オランダ第三の都市であるデン・ハーグで唯一となる“Yoshi Bento”は、電話でオーダーを受けてからその場で作り、出来立てのほやほやの温かいお弁当をすぐに届けている。

日本食材はオランダの昭和貿易やデュッセルドルフのJFCから購入し、地元の魚市場などで新鮮な物を仕入れている。化学調味料は一切使っていない。

スタッフは、メインシェフでオーナーの吉崎潤さんと奥様の奈々絵さん、同じくシェフでスタッフの横田有司

さんの日本人3名だけ。オープンしてまだ1年も経っていないが、すでに近所の日本大使館から毎日オーダーが入ったり、顧客が付いている評判のお店となっている。

「デン・ハーグには日本人シェフのレストランが少なくて、お弁当屋に関してはウチしかありません。オランダは人口が1600万人しかいないので、いろんなことのレベルが低くて、食に関しても同じなんです。同じレストランで毎回同じ味が出せない、いくら詳細に教えても出来ない。そういったことが普通にあるんですね」。

「だから、だったら全部自分でやろうと思ったのがきっかけです。自宅のキッチンで出来るし、仕入れから味の管理まで全部自分で出来ますからね。あと、デン・ハーグで長年レストランに勤務していたので、そこでの経験や人脈が充分出来たという確信もありました」。

 

 

吉崎夫妻は、すでにオランダに住み出して6年目となる。潤さんは日本にいた頃から長年料理人としてのキャリアがあり、知人から飲食店をやらないかと誘われたのをきっかけに移住。

結局、諸事情でオープンには至らなかったのだが、そのままオランダでシェフとして働いてきた。料理の腕はもちろんのことながら、オランダで自営業をする上で、地元の人との信頼関係と人脈が何より大切だと語ってくれた。

「お客さんのほとんどは、近隣に住む方です。一度頼んでくれた方がリピーターになってくれることがほとんどなので、そこからまた口コミで広げてくれるんですよね。だから、PR活動はほとんどやっていません。前職のレストランのボスが自ら宣伝してくれたり、その時の常連だった方がオーダーしてくれたり、独立して辞めてしまうのに、そんな温かい好意を受けれてとても嬉しかったです。そういった深い人間関係を作ることが、PRにお金をかけることより全然大事なことだと思いました」。

 


 

「オランダで日本食というとお寿司しか知らないんですよね。そのイメージしかないし、本格的な日本食を食べられるレストランがほとんどないんです。そういった事情もあって、日本人のお客様が多いんだと思いますが、外国人のリピーターの方でも”僕はこのお弁当を食べるのが本当に楽しみなんだ。いつもありがとう!”と届ける度にと本当に嬉しそうに語ってくれる方やチップを多くくれる方もいます」。

そう語る奈々絵さんの笑顔にファンが付いているのは確実だと思うが、yoshi bentoを通じて、本当はこんなにおいしい日本食があるのだと言うことを知ってもらえるのは同じ日本人としてとても嬉しい。

一番の人気メニューは唐揚げ弁当、続いて、ステーキ丼、日本人には圧倒的にカツ丼が人気とのこと。潤さんの作った料理を何度か食べさせてもらったけれど、日本人ならではの繊細さと温かい気持ちが籠っていて、本当においしい。

 


 

日本人シェフが少ないオランダでは腕の良いシェフは職に困らない上に、飲食業も成功しやすい環境にあると言う。しかし、良いことばかりではない。日本人だけで営業しようとすると外国人というリスク以外にこんなことも起こりえるというのだ。

「同じ日本人同士なのに同業者が変な噂を流して、営業妨害するというケースを聞きました。日本人が少なく、狭いコミュニティーなので、噂はすぐに広まってしまいますし、それが命取りになることもあります」。

同じ国の人間同士が足を引っ張りあうなんて驚く話ではあったけれど、異国に暮らすというのはそういった予想もしない出来事が沢山あるのが現実である。

昨年12月から日本人のビザに関して法改正されたオランダ。身近にも増えてきている日本人移住者は今後もっと増えていくだろう。それは、イコール日本食の需要も高まっていくということになるだろう。

日本人の器用さ、丁寧さは世界一だと思っている。寿司だけでない日本食の素晴らしさをyoshi bentoを通じて、オランダ全体にも広がっていってくれることを願っている。

Yoshi bentoのフェイスブックページはこちら

ちなみに、潤さんは日本人移住希望者のためにビザ取得のアドバイザーも行っている。オランダへ移住を本気で考えている方は一度問い合わせてみてはいかがでしょうか?

お問い合わせ先:yoshibento17@gmail.com

 


左から吉崎奈々絵さん、吉崎潤さん、横田有司さん

Photo : Atshushi Harada




宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



この記事に関連する記事