繊維素材やテキスタイルで、従来になかった技術で新規ビジネスを立ち上げる企業が登場し始めた。大学発ベンチャー、異業種からの参入、継承した家業をモデルチェンジするなど、立ち上げの経緯は様々だが、技術と熱意で素材にイノベーションを起こしつつある。
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IT業界では米シリコンバレーに象徴されるように、新規ビジネスを創造するスタートアップ企業が日々生まれている。一方、歴史が古い繊維産業では天然繊維や化合繊でサプライチェーンが確立しており、素材のイノベーションは起こりづらいように見える。しかし、新興国の経済成長や人口増、環境問題、IoT(モノのインターネット)化など世界規模の変化が繊維素材にも変革を促す。
◆継承した家業で新規ビジネス
昨年、総額30億円の資金調達で話題を集めたミツフジ(京都府精華町)は、銀メッキの導電性繊維やウェアラブル製品で急成長し、同分野で国内トップを走る存在となっている。衣服がセンサーの役割をするスマートウェアでは、正確なデータ伝達が求められる。西陣織の帯製造を祖業とし、92年に米国の銀メッキ繊維メーカーと日本での独占契約を締結。そこから蓄積してきた技術が実を結んだ。
同社の三寺歩社長は37歳のころ、先代社長で父の康廣氏から会社を引き継いで新規分野を拡大。「ベンチャー型事業継承」のモデルとして経済産業省も注目する。整理仕上げ加工が本業の高橋練染(京都市)は、自社開発の銀イオンを使った制菌・防臭加工が本業に並ぶ柱に成長する。同社も15年に父から継承した高橋聖介社長が新規事業に挑んだ。
ウェアラブル関連では大学発ベンチャーの動きも活発だ。東大発のゼノマ(東京)は、テキスタイルに伸縮する電気回路を作る技術を生かしたスマートウェア「イースキン」の開発・事業化を進め、国内外の医療機関やアパレル企業からの受託開発が本格的に始まった。東北大学の研究成果を事業化する目的で設立したエーアイシルク(仙台市)は、シルクに導電性高分子を重合したシルク電極で事業に取り組む。シルク特有の肌当たりや風合いの良さが、スマートウェアに最適な素材として注目を集めている。
◆注目の技術に資金バックアップも
天然繊維でもテクノロジーを活用した事業モデルが登場している。あつまるホールディングス(熊本市)は、無菌養蚕工場「NSP山鹿工場」を立ち上げた。温度・湿度を管理し、人工飼料によって年24回飼育するという通年稼働のハイテク養蚕工場は、農家が手間ひまかけて育てる従来の養蚕のイメージを覆す。
同社の本業は求人情報誌の発行で、全く異業種からの参入だ。島田俊郎社長が周年無菌養蚕システムの話を聞いて興味を持ち、地域活性化のためにもと「素人集団でスタートした」。現在、シルク価格は世界的な高騰が問題となっているため、コストメリットが出せれば、ハイテク養蚕の可能性も見えてくる。
エコ関連も新技術の活用が期待される。日本環境設計(東京)は、酵素を使って綿をエタノールに変える技術、ポリエステルを分解する技術で、古着の回収再利用の事業化に取り組む。今治や北九州にプラントを持ち、イオンリテール、ライトオン、ゴールドウインなど提携先と衣類回収を行っている。
スタートアップ企業は、乏しい事業資金がネックになるが、可能性のある技術に対してはバックアップする動きも増え、大手企業も彼らに注目する。日本環境設計は今年、豊島と業務提携契約を結び、第三者割当増資で資金調達した。
ミツフジの総額30億円の調達は、金融機関のほか、電通、前田建設工業、北陸のカジナイロンなどが協力した。エーアイシルクも、アシックスの投資子会社から初の案件として出資を受けた。各社の技術やアイデアのユニークさには引き続き関心が寄せられ、出資を検討している企業はほかにも複数ある。
新技術を武器に挑戦する〝素材イノベーター〟の動きを追う。
【繊研新聞本紙 2018年04月10日付から】