《ファッションビジネス革命前夜~変わるメンズスーツ㊤》デジタル接客 新たなオーダー体験を提供 若い世代獲得し成長軌道に
オーダーメイドスーツがECとは対極の存在と思われたのは過去の話。「2着目以降はスマートフォンで簡単に注文」できる時代になり、アパレル業界全体が低迷する中、成長性の高いオーダースーツ専門店が目立ってきた。スマホでの注文はもちろん、店頭でのタブレット接客などITを活用した「新たなオーダー体験」の提供で、20~30代の若い客層を獲得できたことが大きい。既存の専門店に加え、大手アパレルやIT系新興企業も参入、競争も激しくなり、自分だけの1着をカスタマイズできるオーダースーツは次のステージに入る。
(大竹清臣)
2着目からはスマホで
新たなオーダー業態で一気に店舗数を拡大したのがコナカの「ディファレンス」。東京・青山に1号店を開設して約1年4カ月で店舗数が50店に到達した。デジタルとリアルを融合した接客サービスによってオーダー初体験の若い男性の心をとらえたことが大きい。
価格設定や仕上がりイメージなどが分かりにくく、敷居が高かった従来のオーダースーツ専門店のデメリットを解消するため、店頭オペレーションを一新したことも成長の要因だ。店内の選択肢を絞り込むとともに、タブレットの画面からも簡単に選べる。店頭で採寸した初回購入時のデータがあれば、2着目以降はスマホで注文できる利便性も魅力だ。
大手アパレルでもITを活用したオーダースーツへの期待は高い。オムニチャネル型へ業態転換したオンワードパーソナルスタイルのオーダーメイドスーツの新事業「カシヤマザスマートテーラー」は転換以前と比べ、売り上げが2倍に伸びた。「まだまだ2着目以降をスマホで注文する客数は限られるが、ECが当たり前のミレニアル世代を軸に増え、さらに市場は広がる」とみている。
EC発で14年に始まったオーダースーツサービス「ファブリックトウキョウ」はIT系新興企業。初回に店舗で採寸・試着すれば、2回目以降はECで好みの生地でカスタマイズして注文ができる利便性が強み。2期連続で前期比3倍の売り上げを達成し、EC比率は90%超を占める。実店舗は銀座の路面店を含め東京、横浜に7店(期間限定店含む)で、今後も商業施設内などの小型店も積極的に出店する予定。将来的な売り上げ目標は100億円超を掲げる。
トータルで着せ替えも
同時期に参入した青山商事もオーダー主力の「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」を軸に若い世代が気軽にオーダー体験できるデジタルツールを導入。タブレットで3D撮影して仮想試着ができる「バーチャルフィッティングアバターシステム」を接客に活用している。アバターを使えば画面上で瞬時に色柄やデザインを無数に試したり、スーツやシャツまでトータルで着せ替えられたり、細かい質感まで画面上で確認することが可能で、初心者から好評だ。
AOKIもデジタル技術を活用したオーダースーツの新システムを全店に導入。タブレットで生地やパターン、ディテールを選び、コーディネートまで仕上がりのイメージを顧客と共有し、オーダーへの抵抗感を払拭(ふっしょく)することで売り上げ増につなげている。デジタルツールを武器とした大手紳士服専門店の参入がオーダー業界への刺激になったのは間違いない。
オーダースーツを生産・販売するセンチュリーグループは将来を見据え、3D採寸機やデジタルプリンターによる裏地のカスタマイズなどのトライアルを始めた。最先端のデジタルツールを使いこなし、進化したオーダースーツを提供するには、販売だけでなく、生産から物流までを大幅に刷新する必要がある。