きょうから12月。師走を迎えた。師走の語源の一つには「僧侶(師)が仏事で走り回る忙しさ」があるとされる。これから年末に向けて、多忙を極める企業も多いだろう。
僧侶が身に着ける衣には、絽や紗という生地が使われる。からみ織り(もじり織り)という技法で織られ、生地の目が開いており通気性が良いのが特徴だ。僧侶の衣以外にも、夏のきものにも用いられる。主に7、8月の盛夏を中心に、6月から9月ごろまで着るものとされている。
絽や紗を初めて意識したのは、パリ・コレクションを取材するようになって数年目のことだ。「コムデギャルソン」の春夏メンズのショーで、通気性の良さそうな素材の服を見つけた。生地の目が開いているせいか、天井からのライティングに反射して生地がきらきらと輝いて見えた。駆け出しの記者だった自分の横には、コムデギャルソンのテキスタイルを担当していた織物研究舎の故松下弘さんが座っていて、「あの生地はなんだろう」とつぶやくと、横からそっと耳打ちしてくれた。
ハワイアンミュージックのような音楽と天井からのライト、少しまぶしい記憶は30年近く経った今でも覚えている。デザイナーやテキスタイルの職人が師のようになって、駆け出しの記者の服を見る目を培ってくれた。そんな先人たちの志を引き継いでいきたい。