《めてみみ》時間の価値

2024/01/01 06:23 更新


 「速く、速く」。幼い子に、何度言ったことだろう。親の都合で急がせては、気が滅入ったりもしたものだ。現在進行形で子育て中の方々も、少しはゆったりと正月を過ごしておられますように。

 とかく大人の世界は忙しい。かつて、人間の1年はドッグイヤーに例えられ、7倍のスピードで進んでいると言われたが、今はマウスイヤーで18倍らしい。

 速さが優先され、その価値が高まる時代にあって、よく聞くようになった言葉に、サヴォアフェール(匠の技)がある。決して一朝一夕には生まれない物作りへの敬意を示し、美しく響く。ラグジュアリーブランドが高価格である根拠を語るなかで、欠かせないフランス語だ。これが称号として機能するよう投資し、分厚い文化と一体化させて世界に販売する。時間を価値に取り込む巧みな戦略が先を行く。

 幼い子が歩く、発語するといった成長の速度に、親は一喜一憂する。しかし、胎内にいるのは、昔も今も十月十日。約280日で、変わらない。ちなみに、犬は63日で、ネズミは20日だ。生命はいまだ神秘に包まれているが、哺乳類が産み出されるまでの一定の時間には意味があろう。

 繊維・ファッション業界は今年も、速さが求められるだろう。その変化の一瞬を捉え、時に立ち止まって考える。そんなきっかけを作れる媒体でありたいと願う。



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