新品のコートやジャケットを買うと片側の袖先に織りネームが付いていることがある。服のブランド名、もしくは生地メーカーの名前を刺繍したネームで、名の通ったブランドであるとか、良い素材を使っていると客に知らせる意味がある。
購入後に外す前提で付けられているので、ネームは四隅を仕付け糸で留めているだけだ。ところが、店員がそのことを教えなかったのか、ネットで買ったからなのか、最近は付けたままで着ている人をよく見かけるようになった。
取材先の専門店で聞くと、若い世代はそもそも「取り外すものだということを知らない」ケースが多いという。近ごろは「その状態が好きなのであえて付けっぱなしで着たい」客も一定数いると教えてくれた。
そう考える人が増えてきたせいか、ネームをしっかりと袖先に縫い付けたコートを企画したブランドもある。購入客には「外して着ても、付けたままにしても、どちらでもよい」と伝えているそうだ。
19世紀末、雨の日にスーツのパンツの裾を汚れないように折り返したイギリス人を見たアメリカ人が、それを流行と勘違いしてまねたことがきっかけとなり、20世紀にダブルの裾が定着したという説がある。ファッションに絶対の正解はない。ひょっとしたらネーム付きのままで服を着るのも、遠くない未来に当たり前になるかもしれない。