この春、ロンドンではボディウエアの話題が相次いでいる。
ボディウエアという言葉は日本でも一般化しているのだろうか。そもそも、ボディウエアの定義とは? ネットでサーチしてみると、「肌着類または下着の機能性にアウターウエア (外着) としてのファッション性をプラスした服を指す」(ブリタニカ国際百科事典)とある。
ということは、その服とはアンダーウエア? それともアウター?と突っ込みたくなる感じもするが、少ない言葉数で端的に説明していると思う。
ま、基本は下着だが、そこから発展した室内着やスポーツウエアまで、広義の解釈は様々といったところ。
そういえば、2年前の水着ライン発売時にはご本人様のインタビューもさせていただいたデビッド・ベッカムとH&Mのコラボによるメンズアンダーウエアブランドは「デビッド・ベッカム・ボディウエア」である。
セルフリッジ百貨店のボディウエアの定義は単純明快。「素肌に直接着るすべての衣料」というものだ。下着からストキング、水着、ナイトウエア、スポーツウエア、ここ最近注目のアスレジャーまで含まれる。
今、セルフリッジのオックスフォードストリート旗艦店のショーウインドウは、その様々なボディウエアに占拠されている。4月4日に女性向けのボディウエア売り場としては世界最大を誇る「ボディスタジオ」をオープンしたのだ。
セルフリッジ旗艦店の「ボディスタジオ」。アクティブウエア、サン&スイムウエア、ラウンジウエア、タイツ・靴下、ランジェリーの5つのカテゴリーの売り場で構成されている
3500平方メートルの広さに150ブランド、3万アイテムが揃う売り場は、百貨店としては珍しく自然光が差し込むゆったりとした空間。パーソナルショッピングを行う「フィットスタジオ」やカフェもある。
入り口を入ると、まず最初にアクティブウエアのコーナーがある。大手スポーツブランドやヨガウエアブランドなどから厳選されたお洒落なアイテムが並び、「アディダス・バイ・ステラ・マッカートニー」もある。
発売当初ステラは「ジムに行くと男性はこだわりのスポーツウエアを着ているのに、女性は雑誌の付録Tシャツなど、どうでもいいような格好をしている。もっとお洒落にトレーニングして欲しい」と語っていたが、あれから10年。女性たちのトレーニングウエアを取り巻く環境は大きく変わった。
次のコーナーはスイムウエア。正面にはロンドンの新進デザイナー「ロクサンダ」の鮮やかなカラーブロックのワンピースやビキニが並ぶ。そして、ナイトウエア、ストッキング、下着のコーナーが続く。アウターに近いものからアンダーウエアへという配置で、「エージェント・プロヴォケーター」などセクシーランジェリーブランドのインショップもある。
山積みになったパンティが1着25ポンド(4000円)だったりと、それなりのブランドのそれなりのお値段のものばかり。お手頃価格のお洒落なアンダーウエアは「ヴィクトリアズ・シークレット」にでも任せておけばいいということか。
EveryBODYをキャッチフレーズに、様々な人種や体型の素人モデルを使ったビジュアルキャンペーンにも力を入れているが、お財布事情はEveryBODYというわけにはいかなさそうだ。
一方、14日には待望のビヨンセとトップショップが組んだ「アイビーパーク」が発売された。ズバリ「アスレジャー」を銘打った200アイテムが揃うコレクションは、モノトーンを基調にしたシャープなアスレチックウエア。20〜30ポンドが中心価格と値ごろ感満載といった感じ。これは売れるでしょう。
オックスフォードサーカスのトップショップ本店の建物には、これまで見たこともないような巨大なキャンペーン写真が登場。オックスフォードサーカス側の入り口正面のエスカレーターで地下に下りると、正面にドーンとコーナーがある。何着も手にしているお客さんも多く、意外なのは40歳代、50歳代の女性も目立つこと。
トップショップのオックスフォードストリート本店。ビヨンセ自らモデルを務めるアイビーパークのキャンペーン写真の大きさには圧倒される
企画が発表されたのは14年秋。つまり、単発的なコラボラインではなく、折半出資でパークウッド・トップショップ・アスレチック社を設立しての本格的なブランドの発売である。
トップショップだけでなく、ネッタポルテやセルフリッジ、JDスポーツ、ノードストロームなど世界50か国で販売。ちなみにブランド名は、ビヨンセの娘の名前とビヨンセが心の拠り所としている公園を合体させたものらしい。
それにしても、やたらとブランド名がドーンと書かれたスポーツウエアなのだが、ビヨンセ自らモデルを務めるキャンペーン映像はさすが、なんともスタイリッシュなイメージにまとめられている。
そしてもう1つのロンドンのボディウエア関連の話題は、16日からヴィクトリア&アルバート博物館ではじまった下着の展覧会「アンドレスド:ア・ブリーフ・ヒストリー・オブ・アンダーウエア」展。18世紀から現代までの下着の変遷と発展をたどる展覧会で、来年3月12日までの長期開催となっている。
アンドレスド展に並ぶ18世紀のアンダーウエア
2フロアからなる会場の1階入り口付近には、お決まりのようにコルセットの数々が並ぶ。と言っても、展示は時系列ではなくテーマ別。というよりも用途別といった方がわかりやすいだろうか。レディスだけでなくメンズもそれなりの数が揃っている。
「フォルム」のコーナーには、クリノリンやバッスルといった歴史的なコスチュームのシルエットを支えるアンダーウエアとともに、数年前に発売されて話題を呼んだマークス&スペンサーの男性用体型補正下着「ボディマックス」があり、「スポーツ」のショーケースには、19世紀の乗馬用コルセットとハイテク素材のスポーツブラとレギンスが共存している。
「スポーツ」のコーナー
展示は、アンダーウエアとファッションの関係をテーマにした2階部分へと続く。デザイナーによる下着ルックのようなものや、カルバン・クラインのボトムのウエストから覗くロゴ入りショーツといったスタイルである。
数多くの歴史的なコスチュームを所蔵している英国を代表する装飾博物館の衣装分野とあって、歴史的なアイテムの展示は充実している。わずか140グラムしかないという乗馬用コルセットなどには驚かされる。ヴィクトリア時代の防寒用のキルティングのペチコートなんてものもはじめて見た。
でも、正直なところなんだか物足りない。「ヴィクトリアズ・シークレット」に触れていないことにも驚いたが、この時期の開催なのに、ウェルネスやアスレジャーにまでたどり着いていないのがその理由かもしれない。
アンダーウエアとファッションの関係の展示の目玉が、グウィネス・パルトロウが着て話題を呼んだ、アントニオ・ベラルティによる下着がプリントされたトロンプルイユドレスだったりするのにも違和感を感じる。
展覧会のサブタイトル「ア・ブリーフ・ヒストリー・オブ・アンダーウエア」のブリーフは「簡単な」という言葉と下着のブリーフ(英語では男性用だけでなく女性用のビキニタイプのパンティをフリーブという)を引っ掛けたもの。
最近の企画展にしては展示数もそれほど多くない、まさに「簡単な」服飾展覧会なのだが、近年の部分をもっと突っ込んで欲しいと思うのは、私だけだろうか。
でも大丈夫。この展覧会で「簡単な」歴史をお勉強して、セルフリッジの「ボディスタジオ」とトップショップの「アイビーパーク」をはしごすれば、4世紀にわたるボディウエアの進化を見ることができるから。
グウィネス・パルトロウが着て注目されたアントニオ・ベラルディのトロンプルイユドレスは2009年春夏の作品
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員