客は?セールは?3ヶ月ぶり営業再開の英百貨店をチェック!(若月美奈)

2020/06/19 06:00 更新


6月15日、ロンドンのファッション店が約3ヶ月ぶりに開店した。政府によるガイダンスの施行は?、来客は?、商品は? セール状況は?

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解禁になったものの、まだ扉を閉ざしている店も多いが、デザイナーファッションが揃うオックスフォードストリートのセルフリッジ、リージェントストリートのリバティ、ボンドストリートのフェンウィックの3店で比較してみたい。

2メートルのソーシャルディスタンスを確保するためのポスターの設置や入店時の手の消毒などに加え、大型店では入口と出口を別にして床に2メートルおきに誘導のサインを貼って一方通行にすること、レジ前に透明のアクリル板を設置すること、返品された商品は72 時間の隔離後店頭に戻すことなどが要請されている。

政府は消費者に対しても、買う商品以外は触らない、現金ではなくクレジットカードで支払う、買い物は1人もしくは同居人2人で行くことなどのガイダンスを広く紹介している。小売店の営業再開に合わせ、これまで任意だった公共交通機関使用時のフェイスカバー(マスクやシールドなどの着用)が義務付けされた。

セルフリッジの入り口前。オックスフォードストリートはそれなりの人出となった

まず最初に来客数だが、私が行った午後2時から5時の間では、セルフリッジはまずまずの人出で、レディスよりもメンズ売り場がにぎわっていた。もっとも、ファストファッション店などと違い、ほとんど並ばずに入店できる。リバティやフェンウィックはがらがらだった。

入店時の体温チェックはない。マスクの着用率は10%程度で、販売員もほとんどしていない。 15日当日の英国の新型コロナ新規感染者は1056人。死者数は新規38人で累計4万1736人と欧州最多の数字を更新している。いくら営業が再開されても密を避けたいと買い物を控える人も多く、あまり気にしない人々が出かけたということも、マスクの着用率の低さや若い男性客の多さに現れているように思う。

そうした状況下の営業に、セルフリッジはさすがにおしゃれに対応している。

正面入口と横の入口には多くの係員を配置して、入店客に2メートル間隔での入店を誘導。ドアの前ではスーツを着た紳士が笑顔で迎える。店内のカフェやレストランは営業できないため、喉の渇きを癒すために紙パック入りのミネラルウオーターを無料で配布。入り口前では再開を盛り上げるライブ演奏も行われていた。

入口だけでなく店内にたくさんの消毒液が設置されているが、コーポレートカラーの黄色い板にはめ込まれたスマートなデザイン。エスカレーターにも、交差するときに距離が保てるように黄色いガイドがペイントされている。

もっとも、一度店内に入ると、客は2メートルの距離などほとんど気にせず自由に動き回っている。距離を促すアナウンスは盛んに行われているがお構いなし。1人どころか数人のグループで来ている若者も多い。

ミネラルウォーターは通りに置かれ、来店客でなくても自由に飲める
マネキンでおしゃれに2メートルの距離を表示
店内のいたるところに配置された消毒液
エスカレーターにも距離を保つための黄色いマークがついている。最もロンドンは右側に立つ習慣で、左側に印がついたところではそれを無視して右側に立っている人が多い

一方リバティは、正面入口を閉鎖してリージェントストリート側の入り口をオープン。ステッカーや係員による誘導で一方通行を徹底している。

入り口に近い階段は上り専用で降りることができない。2階、3階のレディス売り場へは行けるが、地下のメンズ売り場に行くには一階を通過して店の奥の下り専用の階段を使用しなければならない。うっかり逆行しようものなら係員に止められる。

リバティの正面入り口は封鎖され、右側のリージェントストリート側の入り口から入る

フェンウィックはオックスフォードストリート寄りが入り口。中に入ると市販の消毒液が置かれていたりするあたりに庶民的なものを感じる。そして、中央のエレベーターに行くと、上りも下りも前にロープが渡されていて乗れない。すると、横に立っていたページボーイ風のスタイルの若い男性が、「上のレディスですか、下のメンズですか」と尋ねてくるので行き先を伝えると、ロープを外して案内してくれる。

試着室は数は減らしているが、どの店でも使用できる。試着の前後に係員がスチームをかけて消毒する。

何よりも3店舗の大きな違いはトイレだ。セルフリッジでは通常通りにトイレを使用できる。

なんと、リバティは館内全トイレが封鎖されている。誘導の係員に聞くと、「コロナ対策でトイレは使用できません。カーナビーストリートの公衆トイレへ行ってください」との答えが返ってきた。

フェンウィックは、トイレの前に2人の係員がいて、並ぶように誘導される。使用した客が出ると、手すりや便器などを丁寧に消毒してから次の客を入れる。店内はがらがらなのにトイレに入るのに10分待った。

エレベーターといい、トイレといい、今後混んできたらどうするのだろうか・・・

さて、私が一番確かめたかったのはセール状況だ。6月中旬は例年セールが開始されるタイミング。この3ヶ月間、実店舗は閉店していてもECは開店を続け、多くのデザイナー商品が早い時期から値下げさている。そうした状況下、5月12日にドリス・ヴァン・ノッテンらがファッションサイクルの見直しを訴える公開書簡 を出した。セールは7月と1月まで行わないことが明記されたその書簡に、世界中の多くのファッション関係者が署名している。

公開書簡の署名者欄には、6月15日時点でセルフリッジとリバティの名前がある。フェンウィックはない。

あくまで個人による署名で、セルフリッジはバイイング&マーチャンダイジング・ディレクターのセバスチャン・マネスさんが署名。リバティはライセンスとジュエリーのブランドマネージャーのマッダレーナ・リアンドレアさんが署名しているが、百貨店というよりリバティブランドのマネージャーのようだ。

セルフリッジには基本的にセールのサインはない。基本的というのは、例えば「テッド・ベーカー」のインショップなどには赤いセールのサインが掲げられ、半額近い値引きが行われている。

そこで、平場のデザイナー商品は全て定価で販売されているのかと思うと、実はそうでもない。値札をみると、値引きされているものもある。買取か売上仕入れかなどの商品の所有権やブランド側の意向などで色々あるようだ。もっとも定価販売がメインであることは間違いない。

リバティにもセールのサインはない。しかし、大半の商品が値引きされている。こちらもブランドによって様々だが、ロンドン・コレクションに参加するデザイナーの服が半額近くで売られていたりする。

「パルマー・ハーディング」のようにデザイナーが公開書簡に署名したブランドも大幅に値下げされている。店内に赤いセールのサインはないが、ラックに値下げを知らせるそれなりに大きい目立たない色の札がかかっている。

春夏の商品がデザインもサイズもほとんど全部揃っている綺麗な売り場で、実は半額。まして店内はがらがらでまるでパーソナルショッピングのようだとあれば、財布の紐は緩む。でも、カフェもトイレもないのであまり長居はできないが・・・

フェンウィックはエレベーター脇にSALEをかたどった大きな赤いオブジェが置かれ、セールを公表している。実際、ほとんどの商品が半額近くなっている。「PSポール・スミス」のようなブランドも皆値下げ。ちなみに「ポール・スミス」はポール・スミスさん自身は署名していないが、テクニカルデザイナーのエリカ・コンテッシさんが署名している。

6月15日のロンドンの気温は23度。まさにリアルシーズンに商品がずらりと並んでいる様子はワクワクする。実シーズンにこんなに選択肢があることをこれまで体験してこなかったことの反動もあり、定価でもガンガン買ってしまいそうだ。

しかし、販売シーズンのリセットは、日本の学校の9月入学と同様に一筋縄ではいかない問題が山積みされている。今こそチャンスと思われるが、ECも含めて全世界が同時に3ヶ月営業停止ということでもない限り、足並みは揃わない。

観光客需要に支えられているロンドン中心街の百貨店にとって、今後かなり長い期間多くの来店が見込めない今、現商品を少しでも現金化する姿勢に一方的にNOは言えない。地元英国人も5人に1人がしばらくファッション店には行かないと答えている調査結果もある。理想像だけではファッション小売業自体が破綻しかねない。

そんな営業再開初日に痛感したのは、お店での買い物って素晴らしいということ。ロックダウン中、従来は店頭で買っていたものも皆ECで買うようになり、ECへの移行が自然であると思っていた。でも、素晴らしい実物を大量に目の前にすると、やっぱりデザイナーファッションは実店舗で買いたい!


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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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