【記者の目】オーダースーツ業界は新たな局面へ

2018/09/10 06:30 更新


 ECモール「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが「ゾゾスーツ」を使った採寸のデジタル化を武器にPBでオーダーメイドスーツの販売を開始するなど、既存のオーダースーツ業界は新たな局面を迎えている。消費者との接点でデジタル化が加速する中、生産現場でも「インダストリー4.0」やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)など最先端技術による革新が急務となってきた。ただし、ハイテク化が進めば進むほど、オーダーの世界では手仕事や対面販売などアナログの価値が見直される逆転現象も生まれている。

(大竹清臣=本社編集部メンズ分野担当)

IT駆使した販売手法

 洋服が売れないと言われるが、オーダースーツ市場では新規客を獲得し業績を伸ばしてきた企業が際立つ。数年前から新規参入した大手紳士服専門店をはじめ、大手アパレル、新興企業ではスマートフォンで気軽に注文できたり、店頭でタブレットの画像から生地を選んだり、コーディネートイメージが確認できたりするなど、ITを駆使した販売手法によって、オーダー初体験の若い世代を取り込むことに成功した。

 価格設定や出来上がりイメージなどが分かりにくく、敷居が高かった従来のオーダースーツ専門店のデメリットを解消するため、デジタルとリアルを融合した接客サービスが大きな武器となった。

独自進化する日本のEO

 既存のイージーオーダー(EO)スーツ業界でも技術革新への対応が進んでいる。CAD・CAM(コンピューターによる設計・生産)によるカスタマイズされたオーダースーツを量産する仕組みを確立し、日本独自の進化を遂げたシステムで、まだまだ世界的に優位性がある。センチュリーグループ(生産会社センチュリーテクノコア、販売会社センチュリーエール)では3Dスキャナーを6台導入。オーダー初体験の新規客に関心を持ってもらい楽しんでもらうための店頭(取引先)販売支援ツールという役割に過ぎないという。秋から「IoTメジャー」の活用も始める。精度はこれからだが、データ入力など人的ミスがなくなるのは効率的だ。生産現場での検品・検査での活用も検討している。ECでも現状ではオーダーメイドスーツを注文する際、簡易な方法でスムーズかつ精度高い採寸を実現できるかが大きな課題になっている。

スマートファクトリー化を目指すセンチュリーテクノコア

 販売現場のデジタル化に対応した縫製工場の改革が急務だ。センチュリーテクノコアの青森・弘前工場では原反(約1000種類)を探し・運ぶ作業を自動化する。生地や付属の在庫管理もデジタル化していく。本縫いのミシン(80台)もデジタルミシンに入れ替える。スマートファクトリーを目指し、7月末に完成する新工場でもプラットフォームの構築が最優先だ。CAD・CAMを軸とした服作りだけでなく、店頭(取引先2000店へ拡大)と工場をデジタルで結び、スーツを1着ずつハンガーで宅配する物流システム、さらに労務管理システムまで含めた全体最適を目指す。最先端の設備を導入しても、部分的に進化するだけで全体の底上げにはつながらない。

 今後もデジタル接客に対応しスマートファクトリー化も進むだろう。しかし、職人の手仕事を生かした仕立ても大きな要素になるはずだ。利便性だけを追求するオーダースーツは、本来求めていたものとはまったく別次元のサービスになっていくのだろう。

見直されるリアル

 オーダースーツとは、自分だけの1着を作り上げるため、生地やデザインを選び、カスタマイズする過程を楽しむもの。そのためには、リアルな空間でプロによる対面販売は欠かせない。店舗以外にショールームを新設するなどリアルなタッチポイントを増やしているのが、オンワードパーソナルスタイルの「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」。顧客開発部を設立し、熟練のフィッターがオフィスや顧客の自宅に出向き、採寸する体制を整えている。

 紳士服市場ではグローバルなオーダースーツブームに拍車がかかっている。中国のオーダースーツ縫製工場は生産の完全自動化を目指し、最新鋭設備を整える。中国政府もオーダースーツ生産をIT産業ととらえ、大規模な投資をしている。これからは1カ所で年間150万着を生産する工場が増え、世界の一大生産拠点になるだろう。日本市場はいつ攻められてもおかしくない状況だ。今からでも販売・生産の両面での強みを生かした生き残り策に着手すべきだろう。

(繊研新聞本紙7月30日付けから)

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