6日からニューヨークを皮切りに20年春夏コレクションが始まった。開催期間を短縮するなど各地域のスケジュール調整が進み、今回は9月いっぱいがメインのコレクション期間になる。
コレクション報道チームの小笠原拓郎(編集委員)と青木規子の両記者に見どころを聞いた。
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—ここ数シーズン続いたデザイナーの交代劇は少ないみたいだけど、話題は?
青木 そうですね、大きな話題が少ないなかで、LVMHが買収した「パトゥ」のファーストコレクションは注目です。それと元「クレージュ」のディレクターだった2人組のコペルニが復活したり、ザ・ウォールが扱ってる「カイダン・エディションズ」が正式にスケジュールに名を連ねたりと、パリの若手も楽しみです。小笠原さん、ここ数シーズンで新しいデザイナーを据えたブランドの評価は?
小笠原 ブランドとデザイナーの相性というか…デザイナーのディレクションと、それを受け止めて生産するチームとがフィットするのに時間がかかるから、まだ何とも言えないね。
青木 コレクションの評価色々ありましたけど、「ボッテガ・ヴェネタ」はプレコレクションで仕入れたいというバイヤーが多かったので、ランキングは上がっていました。それまで上位じゃなかったけど、そういう意味ではバイヤーの評価は高いのでは。
小笠原 それはホールセール(卸)をやっているからだろうね。ホールセールの有無でもバイヤーの評価は変わるから、一概には言えない。一定の支持は受けているのだろうけど。
青木 センセーショナルなニュースは多くないのですが、見所と言えるのはニューヨークやロンドンなど各地域が様々な企画を出していることでしょうか。全体的にコレクションの参加ブランドも減っているし、期間も短縮化しているなかで、いかに各地域が新味をみせるか。
—例えば。
青木 ロンドンは、入場料を取って一般人を招いたパブリックショーをやります。B to Cなので、新しいファッションビジネスの在り方を模索しているようです。ミラノは「グリーンカーペット」という企画イベントで、サステイナブルを前面に打ち出している。テキスタイルの展示会である「ミラノウニカ」と組んで、年間通してやっている。
—参加ブランドが減っているのは。
青木 ミラノが典型ですが、中堅どころがじわじわ減っている。歴史のある著名ブランドもいるし、新しいブランドも入ってくるから、全体的には微減にとどまっていますが。新しいブランドということで言えば、世界的にアフリカやアジアのデザイナーが増えています。彼らが面白くなるかどうかはこれからなので、まだわかりません。小笠原さん、気になるところは。
小笠原 端的に言えば、デザイナーというかブランドが、コマーシャル(商業的)なものを売るだけの存在になるのか、それとも新しい美(しさ)の表現を探し求め僕らに提示してくれるのか、ということ。前回も新しい美しさを描けたところは少なかった。それを強く感じられたのは「コムデギャルソン」と「ヴァレンティノ」ぐらいかな。
青木 LVMHやケリングなど大手コングロマリットに属していないという意味でインディペンデント(独立系)な日本のブランド、「サカイ」や「トーガ」は安定の存在感があるし、「マメ・クロゴウチ」や「ビューティフルピープル」も頑張っています。
小笠原 まあね。デザイナーを交代させたブランドには、残念ながら心を揺さぶられることはなかった。ビジネスとしてはうまく回っているだろうから、彼らにとっては成功なのだろうけどね。
—ビジネス環境が変わらないとすれば、この傾向は続く。
青木 国内だけでなく、海外でもインディペンデント勢はいるので、期待したいですね。ロンドンでは、実績もなく若手にも満たないような新進ブランドも多いようですが。弊紙の現地通信員である若月さんですら知らないデザイナーも少なくないそうです。
小笠原 協会は枠を埋めなければならないからね。少し面白そうなデザイナーはいるけど。
—プレタポルテに関しては、コマーシャルベースがデフォルトの環境になる?
青木 よりビジネスを意識したブランドはプレコレクションの時期に移っていますからね。
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—サステイナブルは?バズワードになっているけど。
小笠原 サステイナブルな素材を使うことが目的になっているように映る。謳い文句にする必要はないし、黙って使えばいい。デフォルトであるサステイナブルな素材を使った上で、その先にどんな美しさを創り出すのか、というデザイナー本来の仕事に関心がある。
—では、それぞれの地域について。ニューヨークは。「トムフォード」が戻ってくる。
小笠原 あと「ザ・ロウ」と「マーク・ジェイコブス」。
青木 そうですね、ザ・ロウ。全体的には、クリーンでエレガントな大人の女性服、ポスト・フィービー的なブランドが増えている。なかでもザ・ロウは先端を走っていますからね。
小笠原 トムフォードは前回もやっているよ。
青木 CFDAの会長就任後初のショーですね。
—ロンドンは。
小笠原 面白い若手は何人かいる。「モリー・ゴダード」とか「シモーン・ロシャ」とか「リチャード・クイーン」とか。ケリングを離れインディペンデントになったクリストファー・ケインがどうなるか。
—ミラノは。
小笠原 「プラダ」と「グッチ」くらいかな。あと「ジル・サンダー」か。
青木 ですかねえ。5日間とコンパクトになっているので、初日にプラダ、最終日にグッチと全体を締めるための山をきちんとつくっています。
—パリはどうかな。
小笠原 繰り返しになるけど、やっぱり新しい美しさを誰が描くか、ということに尽きる。例えば、この間のオートクチュールで見たヴァレンティノには驚かされた。「どうやってこの立体を作っているのか」みたいなね。フィナーレには白衣のクチュリエ(縫い子)を全員出してきた。
―どのあたりが。
小笠原 手仕事をベースにしながらも、クラシックな古臭いものではなく、今の時代にフィットする美しさをみせてくれた。現代にフィットするモダンな美を昔ながらのテクニックで出来るんだな、と気づかせてくれた。見て良かったと心底思ったし、そういうものをもっと見たい。プレタでも出来るはず。
—オートクチュールとプレタという二つの場所を使い分けている感じ?やりたいことは金額が嵩んでもオートクチュールで全てやって、プレタはコマーシャル、みたいな。
小笠原 でも、ヴァレンティノのドレスは、150万円と300万円ぐらいだからそんなに変わらない。プレタでも手が込んでいるものもあるしね。確かに、ブランドによっては、オートクチュールでアイデンティティを表現し、プレタで売りやすいピースをみせるところもある。
—他には。
小笠原 川久保さんかな。今回はジェンダーをテーマにすることを予め言っていて、6月のメンズでも少しみせた。英・作家、ヴァージニア・ウルフの「オーランドー」が下敷きで、12月にはオペラの衣装を作って、ウィーンで披露することが決まっている。どんなものが見られるのか、楽しみだね。
青木 珍しいですよね、3部作というのは。で、小笠原さんはクチュール的なものをあげていますが、私は別の視点から。今回、マメとか「ロック」とかが初日の夕方にやるんですけど、全体に若い層が厚くて興味深い。「カイダン・エディションズ」とかも。小さい所で細々とやっていたブランドがメーンのスケジュールで初めてやる、みたいなのがいくつかあります。ビジネスとしても可能性がありそうだし、期待したいです。
—何かと話題を提供してくれている「セリーヌ」は。
青木 とにかくニュースとしては跳ねました。エディ(・スリマン)による初コレクションの19年春夏はこれまでのセリーヌと一変、ガーリーなスタイルでセンセーショナルを巻き起きした。話題にはなったけど、一体誰が着るのか、みたいな評価も少なくありませんでした。で、19〜20年秋冬では、多くの女性に響くスタイルを見せて、皆んなを驚かせた。雑誌の秋冬特集でも多く取り上げられています。とにかく話題性があって、次のコレクションでも盛り上がるんだろうな、という気がします。小笠原さんの言う美しさやクリエーションという切り口とは別に、低調ぎみの欧米コレクションの中で話題を提供してくれる数少ないブランドです。今回もエディの事ですから、蓋を開けるまでわからない、そんな意味で楽しみです。
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