好調店の店長はパワフルだ。店長としての職務を全うしながら、プラスで責任ある仕事を一つも二つもこなしている。原動力は憧れの販売員から受けた接客の記憶。そして、ブランドや接客が好きというピュアな気持ちだ。
◇
「イルビゾンテ」北千住店の店長、久保木麻子さん。育児と仕事の両立に悩みながらも、上司と家族の心強い後押しを得て勤続24年。産休・育休も4度取得し、24年4月からフルタイム出勤に復帰、半年後に店長に就任した。年齢やキャリアを重ねても「店頭で接客していたい」。老若男女が訪れるイルビゾンテは、現場一筋の社員にとっても大切な環境になっている。
一人ひとり寄り添う
最終学歴は服飾の専門学校。スタイリストコースを専攻していたが、「当時から手先が器用ではなく、販売員志望だった」。
販売員を志したのには、もう一つ理由がある。学生時代によく訪れていた「マーク・バイ・マークジェイコブス」で理想とする販売員に出会えたことだ。「親切に接客してもらえた」感動が深く心に焼き付いた。
新卒採用はしていなかったが、卒業から半年後の01年10月にマーク・バイ・マークジェイコブスの販売員としてルックに中途採用で入社。09年まで同ブランドで販売の腕を磨いた。
その後、「トリーバーチ」「アリス・アンド・オリビア」を経て、21年からイルビゾンテに。ブランド間異動は少ないが、契約終了のタイミングなどでこのように複数ブランドを経験することもある。
イルビゾンテは「トリーバーチで学んだ革の知識を生かせる」「アパレルとは違って年齢を選ばず、長く勤務しているスタッフが多い」などの理由で志願。候補にあった各ブランドの担当者と面談の末、希望や相性に沿って異動となった。
イルビゾンテは、老若男女に愛されるレザーグッズブランド。顧客タイプや来店動機が多種多様のため、「一人ひとり接客スタイルを変える」ことが重要だ。
接客に加え、役職者の重要な役割が年6回の発注作業。イルビゾンテでは店ごとに店長やサブが売れると期待できるものを見極め、予算に沿って仕入れる数量や色数を決める。バイヤーさながらの仕事内容に責任と楽しさの両方がある。

店頭が〝帰る〟場所
タフさが求められる仕事を続けて来られたのは、「ルックが温かい会社だったから」。マーク・バイ・マークジェイコブス時代に1人目の妊娠が分かったときには、「最初は辞めようと思っていた」。育休・産休の制度はきちんと整備されていたものの、同ブランドでは結婚して退社する社員が多かったからだ。
しかし、当時の上司は久保木さんにこう話した。「育休は(誰もが取って良い)当たり前の制度。復帰できなかったら、できなかったで良い」。このひとことに背中を押されて、続けることができたと振り返る。フルタイム出勤への復帰も、仕事が好きだからこそ「悩んだ」が、義母や子供からのエールが力になった。
販売員のやりがいは、「ブランドの魅力を自分の言葉で伝えられること」。イルビゾンテの場合は、「使い方しだいで自分だけの一点物になる」ことだ。革の特徴やお手入れなどの〝育て方〟を丁寧に伝え、「笑顔が見られたときに販売員をしていて良かったと思う」。
今後も、「接客が好きだから、現場に居続けたい」と久保木さん。「ここに来ると安心して買い物ができる」と思ってもらえるような店作りを目標にしている。「ルックはとにかく人が温かい。研修やメンタルのケアなどの制度もしっかりしているので、安心して育ててもらえる」と話す。
■ここがすごい!
「まじめで誠実、仕事にまっすぐ取り組む人です。若いお客様には親しみやすい接客を、ご年配の方には丁寧にゆっくり話すなど、一人ひとりに合わせた対応力が素敵なところ。スタッフに感謝の気持ちを伝えてくれたり、困ったことがないかヒアリングしてくれたり、真剣な話はもちろん他愛のない話もできる存在です」(前店長・北千住店のスタッフ)
(繊研新聞本紙25年7月16日付)