【SCサポートビジネス~商業施設のDX革命に向けて~】デジタル融合で新たな価値創出へ

2021/07/16 05:01 更新


 SCのDX(デジタルトランスフォーメーション)が前進している。コロナ禍で従来の販促やリーシングなどだけでは通用しなくなり、来店客の購買動向も大きく変化するなかで、SCの課題や悩みに寄り添い、新時代の姿を描き、ともに成長していくことを目指す企業やソリューションに注目が集まっている。

東急「ドットペイ」

決済とポイント、クーポンを一体で

 これからの商業施設は、日本の人口が減少していくなかで、顧客会員基盤を整備して客1人当たりの需要を高めることが成長の条件になる。それにはポイントやクーポンを客ごとに最適化して発行するといった販促が有効となるが、「わざわざポイントカードやクーポン券を出すのは面倒くさい」「少額なのにポイントを使うのは恥ずかしい」「たまったポイントがすぐに使えない」といった課題も多い。

 そこで、東急はNTTデータなどと協業でスマートフォン決済ソリューション「ドットペイ」を開発。「誰もが当たり前のようにポイントやクーポンを使えるようになる」サービスで、様々な商業施設へ導入を広げている。「SC業界のDXをサポートしたい」考えだ。

 自社の販促アプリに独自の「決済」「ポイント」「クーポン」といった機能を搭載できるもので、東急グループの渋谷スクランブルスクエアだけでなく、京都ファミリー、モゾワンダーシティにも導入している。アプリ内に決済機能を追加することで、客が必ず通る導線上の決済と販促の機能が一体化することで「使われるアプリ」となり、顧客化と売り上げアップにつなげられる。

 決済機能を使用する商業施設の客はカードレスのクレジット会員になることで、アプリ内で決済することができる。支払い画面から使いたいクーポンやポイントを選択した上で、QRコードを読み取る流れ。

 ポイントやクーポンを利用するかを確認し合うやり取りが不要で「デートシーンなどでも恥ずかしくない」設計だ。

 SC独自のポイントプログラムの構築やクーポン発行もできる。会員の決済情報は商業施設が自社の顧客データとして保有するため、属性データを元に特別ポイントの付与やクーポンのプッシュ通知など、一人ひとりに最適化したアプローチも可能になる。

 また、そのSCでしか利用できないハウスポイントを即時付与するため、「必ず商業施設の売り上げに返ってくる」仕組み。「化粧品を購入して付与されたポイントをその日のうちに食品売り場で使用する」といった買い回りにも貢献できる。

自社アプリに様々な機能を追加でき、ハウスポイントも即時に付与

DXの最初の一歩に、自社の顧客基盤を構築――東急・松藤京介さんに聞く

東急株式会社 経営企画室 マーケティング・IT推進グループ マーケティング担当 課長補佐 松藤 京介 さん
【08年東急入社。入社以来東急グループの多種多事業にわたるマーケティングコンサルティングを10年以上従事。マーケティングの経験から、新規事業開発に携わり、NTTデータとともに世界初のスマホ決済事業「ドットペイ」を立ち上げる。】

 新型コロナウイルスの影響を多大に受けた今、新しい時代やサービスに向き合っていくことが必要だと感じています。SCの来店客は混雑を避けるために滞在時間が短くなる傾向にありますし、来店する目的も変化してきています。そうした変化を拒絶して足踏みするのではなく、受け入れることがまずは重要です。

 リアルとデジタルを融合するDXの実現に向けて、一気に前進するタイミングが来ているのだと思います。DXの肝は机上の空論ではなく、まずトライをしてみること。そうすると改善点がどんどん出てくるので、PDCA(計画・実行・評価・改善)をひたすら回すことで成功に近づくことができます。

 ドットペイは「DXの最初の一歩を踏み出せる」ソリューションだと捉えています。その理由は、顧客接点の基本となる「決済」「ポイント」「クーポン」をワンアクションで実装でき、自社の顧客基盤を作ることができるからです。

 ポイントやクーポンの機能を決済と一体にすることで、「誰もが当たり前にポイントやクーポンを使うことができる世界」を実現できます。そうすることで、収集したデータを元にマーケティングも行ったり、顧客や会員に最適化したクーポンや期間限定ポイントの発行など、独自施策に結び付けることができます。

 すでに導入いただいた企業では、ものすごいスピードで会員数が増えていると聞いています。リアルタイムでポイントを付与することができるので、お客はその日のうちに買い回りするために、積極的にアプリを起動して、決済に使ってくださります。その姿を見た別のお客が、気になってアプリをダウンロードするという好循環を生んでいます。

 ドットペイは、いわゆるスマートフォン決済サービス事業者とは全く異なるビジネスモデルです。経済圏を形成して相互送客するのではなく、あくまで導入した企業の商業施設の会員を増やしていくものです。

 DXは全てを自社で実現しようとするのではなく、〝共創〟の視点が大切です。当社がドットペイを開発したのは、本当に日本の企業に役に立つサービスを提供したかったから。これは東急の街づくりの精神とも一致します。

(経営企画室マーケティング・IT推進グループマーケティング担当課長補佐)

ハブアンドスポークとクルーズECパートナーズ「SC-EC」

店舗スタッフが店頭在庫を使い施策実現

 SCのEC施策に新しい選択肢が登場する。ハブアンドスポーク(東京)とクルーズECパートナーズ(東京)が企画・開発した店頭在庫型SCオンライン販売プラットフォーム「SC-EC」だ。店頭在庫を店舗スタッフ自身が販売し、発送などは館内物流機能を利用するなどの特徴がある。今年8月には有力SCのモゾワンダーシティが「mozoPLUS」として実装公開する。

 SC-ECは店舗スタッフがスマートフォンを用いて店頭在庫からECに商品登録したり、ストーリー機能で動画接客ができ、店舗の売り上げアップに貢献する。これまでのSCディベロッパーが運営するECモールは、独自のEC在庫・管理や、ささげ(撮影・採寸・原稿作成)などの業務、システム導入・運用など高い障壁があった。SC-ECは店頭在庫を販売するため、特別な在庫確保は必要ない。売り上げも店舗計上のため、店・スタッフのモチベーションにもつながる。客は24時間365日、ECで購入可能。気になる商品は店舗で確認・試着できるなどオンラインとリアルの両方の良さを享受できる。

 運用面は商品・受注管理などもスマホ完結の使い勝手が優れた設計が特徴。ECモール「ショップリスト」のシステムを支えるクルーズECパートナーズの開発・運用ノウハウを生かしコストを抑えながらスピーディーに汎用性のあるシステムを提供する。店舗スタッフはいつでもどこからでも商品登録や「ザッピング」(ファナテック提供)のストーリー機能で動画接客が可能。受注した商品はワールドサプライの館内物流機能で出荷でき、店頭業務の負荷を軽減できる。

 モゾワンダーシティの導入にあたり、同施設を保有する三菱商事UBSリアルティをはじめトリニティーズ、博報堂プロダクツ、ハブアンドスポークの4社が共同プロジェクトを立ち上げ、導入、運用、顧客分析、販促など統一的に協業する。

「mozoPLUS」の商品画像の登録画面。スマホで完結する

カウンターワークス「ショップカウンター」

空きスペースをマッチングで解決

 コロナショックは商業施設、出店者の双方に大打撃を与えている。体力を失ったテナントは退店を急ぎ、施設は空きスペースを埋めてくれるテナント探しに躍起だ。もっとも、空きスペース対策はコロナ前から地方などで深刻化しており、カウンターワークス(東京、三瓶直樹社長)は17年から、施設の空きスペースと出店意欲の強いサプライヤーとのマッチングをオンラインで行っている。登録者数は双方とも加速度的に伸びている。

 「ショップカウンター」に登録するスペースは約2100カ所で、出店者側の登録は1万4000以上にのぼる。出店希望者は「駅・エリア」を入力し「利用用途」を選べば、候補となるスペースが表示され、利用金額や広さ、日時などから選んで申し込み、スペース提供側が承認すれば成約する。SC内や商店街の空きスペース、駐車場やオフィスビルの一角など候補地は多種多様だ。

 出店者の半分近くがファッション関連だが、最近では食品や通信サービスなどが増えており、月間1500~2000件の問い合わせがあるという。最近では、パートナー企業の人材派遣会社を通じた販売員手配や店舗管理などをパッケージで提供するサービスも強めている。

 三菱地所と、スマートコインロッカーのスペースR(東京)との3社協業で取り組んだ、DtoC(メーカー直販)ブランドの試着・購入ができるショールーム運営は注目を集めた。3月下旬から約1カ月、新丸ビル3階アトリウムに設けたもので、新しい顧客体験の実証実験の場だ。「オールユアーズ」など6、7ブランドが参加した。

 ユーザーはオンラインで事前予約、アトリウムにあるロッカーをスマホで解錠すると試着商品が入っており、自ら試して気にいったらECで購入してもらう。コロナ禍で都心の入店客数は期待できなかったが、出店ブランドからの評価は「おおむね良かった」(三瓶社長)という。ある程度の見込み客を抱えるブランドの場合は採算は取れそうな雰囲気だ。「売らない店」は消費者の心理的ハードルを下げるのに効果的で、新しい購入スタイルの体験も新鮮かもしれない。ショールーム型ストアの引き合いは商業施設から強く、全く同じフォーマットで取り組みたいという声もあったという。

新丸ビルで実験した「売らない店」

リテールネクストジャパン

AIカメラで非購入客の動向を把握

 従来型の小売業では「購入客」のデータは取れても、「非購入客」では肌感でしか把握できなかった。しかしここ数年、一部の店舗は天井に高機能カメラを設置、入店客の動向をリサーチできるようになり「売れない理由」の仮説を立てられるようになった。

 客の動線や滞留時間、どこで足を止め、何を触り、試着室が何回使われたか、その時のスタッフの人数や動きなどが把握できるわけだ。そんなデータをもとに店舗や商業施設の運営改善に役立てる企業が増えている。もっとも、かなりの施設で導入されている欧米とは異なり、日本ではまだ黎明(れいめい)期。コロナショックで痛んだ小売企業に投資余力はなく導入数も足踏みしている。

 07年創業、米シリコンバレー発のリテールネクストは、世界90カ国・450社以上にビッグデータソリューションを提供するリーディングカンパニーの一つ。国内ではスノーピークや「ナノ・ユニバース」、東急プラザ渋谷、キラリナ京王吉祥寺など多数が利用している。

 最大の特徴は、自主開発のAI(人工知能)センサーカメラ。有線でつなぐためデータの飛びがなく、店内トラフィックの95%以上を捕捉する。サーバーも不要で、自主開発なのでメンテナンスや更新も随時行われる。個人データ保護を目的としたGDPR(一般データ保護規則)にもグローバルで対応している。

 最近では、「ヴァルカナイズ・ロンドン」を運営するBLBG(東京)と、ウェディング企画のクレイジー(同)が東京・青山で共同運営する「ザ・プレイハウス」の1階ショッピングエリアに採用された。

 日本初進出の英国ブランドなどを集めて展示、店内に設置したカメラを通じて来店客の行動データを取得している。蓄積データは協賛ブランドと共有し運営の改善につなげる、新しい小売業の形だ。実店舗とオンラインを継ぎ目なくつなげ、新たな顧客体験を提供するRaas(リテール・アズ・ア・サービス)モデルで、館とリテールネクスト側が出品者にデータを提供し、出品者はマーケティング費用を支払う。RaaSは、空き店舗対策に悩む商業施設の新たなリーシング手法として関心が高まっており、問い合わせも増えているという。

「ザ・プレイハウス」1階のイメージ図

<関連セミナーはこちらから>



この記事に関連する記事