【有力専門店に聞く】秋冬の仕入れ コロナ禍で品揃えへの変化は?㊤

2020/10/11 06:29 更新


 どんな状況であっても満足のできる〝体験〟を提供したい――。2月中旬、秋冬物の展示会が山場を迎えた中で新型コロナウイルスの感染が深刻化し、国内外の出張の足止めをくらったバイヤーは少なくない。今なおその状況は続いている。先行きが不透明な状況でどんな品揃えを決断して秋冬シーズンを迎えているか、有力専門店のオーナーに聞いた。

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◇一点物の価値を伝える

フィート、スティーフ(東京都目黒区)

 「一点物や作家物の取り扱いを広げています」とは、東京・目黒でメンズ、レディスのセレクトショップを運営するアンデライト代表の熊谷富士喜さん。

 メンズの「フィート」は昨秋のリニューアルで生活雑貨の取り扱いを増やし、洋服70%・雑貨30%で構成しており、コロナ禍をきっかけに「家の中で楽しめる」雑貨をさらに強化。秋冬物は、メーカーによって洋服の仕入れが不安定になっており、生活・小物雑貨の取り扱いが50%近くに高まる方向だ。

 3月に入って店の通常営業が難しくなる中で、熊谷さんが着目したのはビンテージ価値のある器だ。もともと米国に古着を買い付けに行っていたネットワークを生かし、米国在住の日本人のディーラーに頼んで「ネマジポッタリー」の花器を集めてもらい、7月末に30点ほどを入荷。美しいマーブル模様と希少性が来店客に響き、8月半ばには半分以上が売れた。ほかにも店内にはオリジナルのコーヒー豆、日本人作家の器、国内生産のフレグランスなど心地良さが目を引くプロダクツが揃う。

 レディスの「スティーフ」は大きく変えていない。国内のデザイナーブランドの取り扱いが多く、小さな作り手の価値を伝えることに力を注ぐ。8月上旬には、13ブランドの「2次的なもの」を集めた催事販売も開いている。

 まだ遠方在住者の来店は回復していないが、近隣在住の20代、30代の消費意欲は悪くなく、秋冬物の立ち上がりは順調に売れている。

生活を心地よく感じさせる生活雑貨を揃えたフィート。6~8月はアイウェアもよく売れた

◇非現実的な場を崩さない

ダイアリーズ(茨城県つくば市)

 「予算も商品構成も変えていません。服が好きな人は、好きな服に投資するはずです」とは、メンズ主力の「ダイアリーズ」を運営する田余屋の山口典彦代表。欧州製品の取り扱いが多く、他のセレクトショップが消費の環境の悪化を見越して、仕入れを抑えるとするなら「うちにその在庫があれば魅力が引き立ちやすいでしょうし、チャンスと捉えて売っていこうと考えています」という。つくば市はゴールデンウィーク明けに、緊急事態宣言が解除され、店の再開も比較的早かった中では、新規で20代の来店が目立った。コロナ禍をきっかけに「次世代の顧客作りに向けた種まきができたのでは」と見る。

 山口さんが仕入れている商品の多くは、着心地や機能性を重視して選んでいるので、トラッドスタイルであっても屋内外の着用を問わない。「それをどう着用するかは、個々の接客のアドバイスで対応できるんです」。

 来店客の立場も配慮する。世の中の多くの店がコロナ対策のMDへとシフトしたが、「うちに来る人は非現実的な場を楽しんでいると思いますし、そこで現実を見せてはいけないと思っていて」。変わらずに夢を売るスタンスを貫く。かねて運営している自社ECの売上比率は20%ほどだが、とくに強化するアプローチも取っていない。利用客層は、実物や着用した状態を「見て購入する」傾向が強い。店頭の売り上げが伸びれば、自然とECも伸びるとの考えだ。

今季から扱い始めたアンティークウォッチ。リモートワークでさらに腕時計の需要が減る中「売れない物を売っていくこと」に挑戦し続ける

◇着回しができ、家で洗える

フェリーチェ(東京・福生市)

 フェリーチェ(東京・福生市)は上質なレディスブランドのコーディネート提案で、顧客からの支持が高い。コロナ禍では、3月から動画での商品情報を毎日配信、顧客とのつながりを深めながら営業を続けてきた。

 先物の提案や予約受注販売を得意にしており、夏物商品を引き渡すことも営業継続の背景にあり、売り上げは4月以外前年実績を上回っている。

 品揃えは「ティッカ」「マーベリック」「コーヘン」「ミュベール」「ロゥタス」などが主力。品揃えへの影響は少なく、3月のレザーやファー、コートアイテムに続き、8月からは21年春夏物の予約受注も始めた。加えて、メーカーから在庫商品の扱いを頼まれたことで、普段は力を入れないセールの売り上げも加わっている。

 4、5月はリモート会議に対応してトップアイテムを普段より強化。秋物の立ち上げは通常通り8月上旬から。最近の「自宅で洗濯できる」をキーワードに、フェリーチェらしい上質で着回しができるアイテムを提案する。外出やイベントなどの着用シーンが減少するなかでも「やっぱりおしゃれがしたい」「ファッションを楽しみ、気分を上げたい」などの顧客に打ち出していく。

 「ティッカ」のワンピースはミリタリーパンツとの着こなしでカジュアルな雰囲気だが、ブーツを合わせることでオンのシーンにも。前空きで軽く羽織れて、1枚での着こなしでは違った雰囲気が演出できる。

おしゃれ感もリラックスできるコーディネート

◇モードをオンにもオフにも

ビーザ・ワン(鹿児島市)

 ビーザ・ワン(鹿児島市)が運営するレディスセレクトショップ「ミルラ」。モードをベースに、フェミニンやカジュアル、トラッドテイストを揃えたスタイリング提案が強みだ。コロナ禍では施設の集客減に加え、「着ていく場所がなく、購買を迷っている」と、新規客の減少が目立つ。一方で、顧客の来店は復調傾向で、「売り上げは想定より良い」と、健闘している。

 秋物はインポート商品の入荷遅れと全体の仕入れを抑えているが、約60%を占める福岡ブランドとオリジナルは「身近なメーカーとの取り組みで、コミュニケーションが取りやすく、品揃えに影響はない」。そこで、「コンセプトのモードらしいオシャレさ」とちょっとした外出でも家中でも着こなせるコーディネートを打ち出す。

 立ち上がりは残暑と品揃えを考慮し、例年より遅い8月下旬から。トップのコットンのカーディガンとタンクトップ(オリジナル「トレジュール」)はまだまだ暑さが残る初秋に、1枚でも重ね着でも着こなせる。ボリューム感のあるプリーツ加工のボトム「ラグズチェンジ」は家中でも快適に過ごせるパンツ仕様となっている。段ボールニットのパーカは異素材ドッキングや裾のイレギュラーヘム、シャーリング使いなど、「デザイン性に富んでいるが、生地や仕様で使い勝手がよい」という。

使い勝手がよく、多様なシーンに対応できるアイテムコーディネート
カジュアル過ぎないパーカ「ヘレンチア」

◇イベントで来店頻度アップ

ベルビーモア(京都市上京区)

 京都市のミセス専門店ベルビーモアも国内外ブランドのミックスMDをする。同店3代目でもある仕入れ・運営担当の牧野斗季子さんは20年3月展は相次ぐ中止や、自身もコロナ禍で移動を控えたため、秋冬物の仕入れに影響が出た。実物がわかる服はオンライン発注もしたが、新企画は画像だけでは判断ができず仕入れを控えた。またインポートブランドには納入遅れや理由不明の発送キャンセルもあり、9月1日時点で今秋冬物の在庫は例年の半分ほどだ。

 欠けた分を新たなブランドで埋めることも考えるが、仕入れ先を増やすことは店のイメージが変わることや、経営面でも不安がある。それより大きな悩みは来客数の減少だ。コロナ禍で表面化する以前から、消費者のファッション離れを実感している。若い3代目にとって、先代からの顧客の高齢化も不安要因だ。顧客と来店頻度を増やすことが重要課題である。4年前にカフェを併設して、店をライフスタイルも提案できるくつろぎの場を目指した。フラワー教室、ネイルサロンや各種イベントを開き店のコミュニティーの場とした。

 ブランドが少なくなった今秋冬はバッグチャームアクセサリー「デモデ」との協業でスマートフォンケースオーダー会を開くなど、さらにイベントを強化し、顧客の来店回数を増やした。まだ客数と1回あたりの客単価は減少傾向にあるが、顧客の1カ月あたりで見た単価やセット率は上昇。売り上げが伸びている。

店の認知向上と来店促進のために他地域での催事も増やす予定だ

◇アウターの仕入れ減を雑貨とセットでカバー

ブレンダ(大阪市中央区)

 大阪市中央区の大阪市営地下鉄長堀橋駅のすぐ南にあるミセス向けセレクトショップ「ブレンダ」は、国内外ブランドのミックスMDだが大半が欧州ブランドを占める。一点物が多いのもこの店の特徴で、高木由美オーナーのセレクトに多くのファンがいる。

 欧州ブランドの20~21年秋冬物は1年前に発注するものは順調に納品されているが、半年前に発注するプロントモーダなどは、コロナ禍の影響でサンプルが届かず、絵型だけで仕入れ判断をしなければならないものがあった。高木さんは可能な限り試着をして、肌触り、着心地、サイズ感を確かめて仕入れるが、かなわず仕入れを諦めたブランドもある。今秋冬は図らずも仕入れ量を控えることに。

 サンプルのないものは重衣料、アウターに多く、結果的に仕入れはドレス、ブラウスなどが増えた。ただ近年は暖冬傾向にあり、重衣料への力点が弱くなっているのも事実ではある。「メイメイジェイ」などスポーツテイストのカジュアルは期待していたわけではないが、ハウスウェアとしてのニーズが生まれている。強化したのはバッグ、靴、ファー雑貨。顧客が近年購買した服や軽衣料に合わせやすいものを仕入れ、インスタグラムのダイレクトメッセージで入荷情報を発信している。

 ファー類はこれからだが、これら雑貨がセット率を上げ、客単価改善につながっている。何よりも外出控えのムードの中で顧客の来店意欲を高められたことが最大の効果かもしれない。

SNS活用で顧客の来店意欲を高めている

(繊研新聞本紙20年9月10日付)

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