【提言】深刻な人材不足に陥る前に待遇を

2014/11/18 11:17 更新


 建設業界で深刻な人手不足が起きている。東日本大震災に伴う需要だけでなく、20年の東京オリンピック・パラリンピックもあり、全国的な現象となっている。求人倍率が5倍、6倍というのも珍しくない。

 同じように物流業界では、トラックドライバーが足りない。「物流2015年危機」が叫ばれている。国土交通省によると、15年にはトラックドライバーが14万人も不足するという。その後も急激に減ることが予想され、店舗に期日時間通り商品が来ない、宅配便が届かないといった事態も懸念されている。

 飲食チェーンでは、人手不足により24時間営業を取りやめる動きが目立つ。「すき家」は10月1日から、全店の6割にあたる約1200店の深夜営業を休止した。

 こうした業界に共通するのは、長時間の不規則勤務で賃金が低いこと。せっかく求人はあるのに、若い人材が入らず構造的な課題を抱えている。ファッション産業もこれらを他人事と見ることはできない。むしろ、そうした深刻な人材不足に陥らないよう、今から手を打つことが必要だ。

 過去、ファッション産業、とりわけ店頭の販売員は好況になると人手が確保できず、その結果、待遇改善が進んだ。買い手市場になると、その動きが止まるということを繰り返してきた。

 バブル経済が全盛だった90年に、他産業に人材を取られたことで、多くの企業が完全週休2日制を取り入れた。理由はどうあれ、待遇改善にはなった。なかには、週休3日制をうたい、話題を集める企業もあった。

 02年から08年のリーマンショックまで続いた「いざなみ景気」の時は、大手アパレル企業や専門店チェーンがパート・アルバイトの正社員化を進めた。郊外中心にSC開発が進み、人材の囲い込みに大手企業が動いた時代でもあった。

 ただ、今のファッション関連企業の給与、労働条件が優れているとは言いがたい。厚生労働省の13年賃金調査によると、卸売業・小売業の平均月給は32万7000円で、33万円の建設業を下回る。金融業・保険業(46万円)、情報通信業(40万4000円)とは相当差がある。土日や正月も休みにくく、シフトがぎりぎりなため急な休みもとりにくいといった課題も残されている。

 どんなに人気があり、著名なブランド、ショップでも販売員がいなければビジネスは成立しない。消費者が最も身近にブランド、ショップの良さ、悪さを体感するのは販売現場に他ならない。

 業界をあげてファッション産業のすばらしさをアピールするとともに、今こそ待遇改善を大いに進め、競争力のある産業を目指すべきだ。

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