国内手袋の90%のシェアを持つ香川県東かがわ市で昨秋、新しい手袋ブランド「テト」(te+.)が立ち上がった。「生まれ育った地元に恩返しをしたい」との思いを持っていた松下文さんが家電メーカーを退職後、ブランドマネージャーとして事業を引っ張っている。16年10月に販売が始まったばかりだが、百貨店、セレクトショップなどで開いた期間限定店や自社EC店を中心にじわじわとファンを増やしている。
松下さんは、立命館大学卒業後、10年から約6年間、大手家電メーカーで営業・企画を担当した。かねてから地元への貢献を考えていたが、縁あって今治タオルや食器、飲食店を展開するエイトワン(愛媛県松山市)と出会う。両者の思いが一致し、エイトワンの新事業としてテト事業部のスタートが決まった。ブランド名は「手と」それに関わる地元の職人や工場などの物語を伝えていくとの思いを込めた。商品はもちろんすべて国産に決めた。
■ゼロからのスタート
とはいえ、当初は繊維や手袋の知識はゼロ。地元の手袋メーカーを回り、コンセプトを説明し、企画・販売・ウェブのコンテンツなどを1年かけて準備した。松下さんの奮闘を見て、化学系のメーカーに勤務していた夫が参画し、エイトワンから新入社員1人の応援も得た。事務所は松下さんの実家が営むOA機器店の一角を借り、趣旨に賛同してくれたクロダ、トモクニ、福田手袋、ヨークスといった地元の有力メーカーが生産に協力する。
■箱に入れてブランド発信
ようやく商品が完成し、昨年10月から秋冬向けに83アイテムが揃った。主な商品はふんわりとした膨らみのあるカシミヤの糸を使い、無縫製横編み機「ホールガーメント」で成型した手袋や、イタリア製の羊革を使ってベテラン職人が縫製した革手袋、子供用の手袋まで幅広く揃える。価格は2484~2万5920円(税込み)。
商品開発と同じくらいこだわったのが、産地発信ブランドとしての思いの伝え方、商品の展開方法など。手袋は通常、裸で売られることが多いが、テトはあえて箱入りにした。片方だけの販売もあり、透明の真空パックに入っている。繊維や手袋ビジネスに関する先入観がないだけにユニークな発想が生まれる。
「編み手袋も縫製手袋も生産現場のことは、まだまだ勉強中。ただ、自分のような素人の『こうして欲しい』という声に応えてくれる技術が、この産地には残っている。地元に密着し、こつこつと東かがわの手袋の良さを広めていきたい」と松下さん。商品がフルに並び、産地の物語をビジュアルに訴えかけるような売り場作りが当面の宿題だ。