ボンジュール、パリ通信員の松井孝予です。都市封鎖緩もほぼ全面解除、のパリとなりました。ながーい、ながーい間閉鎖されていた、レストラン、シネマ、美術館は大繁盛。
そしてついに、パリのランドマークに隠されていた名所が長い年月を費やした修復工事を終え再オープン、そして新名所も出現しました!パリ21世紀ルネサンスブームの到来です。
パリのプチ・ヴェルサイユ宮殿!
L’HOTEL DE LA MARINE ロテル・ドゥ・ラ・マリンヌ
2, Place de la Concorde 75008 Paris
あのコンコルド広場に、これまで知られることのなかったロテル・ドゥ・ラ・マリンヌが、4年間の修復の眠りからようやく目覚めました。
ロテル・ドゥ・ラ・マリンヌ?
直訳するとフランス海軍の館。ネーミングが与える印象、ぱっとしませんねぇ~。潜水艦、とか、潜水服、とか、浮き輪とかありそうな。ところがこの建物、「パリのヴェルサイユ宮殿」の称号を与えたいほどゴーカに生まれ変わったのです。
マリー=アントワネットはきっとこう呟く「ここはモン・パリ(私のパリ)よっ!」、と_
ロテル・ドゥ・ラ・マリンヌは1789年から約200年間、フランス海軍省だったのですが、この建物の歴史はルイ14世にはじまります。この太陽王は1663年に王室の家具調度品保管を目的とした機関を設立。
さて話は飛び、その息子ルイ15世は自分の騎馬像を飾る場所として、現在のコンコルド広場をマークし、自分の名前をそのまんまとってルイ15世広場と命名。そしてこの場所の再計画をめぐりコンペティションが開かれ、王室のファースト建築家アンジュ=ジャック・ガブリエルのプロジェクトが採用されました。
これがここでご紹介するロテル・ドゥ・ラ・マリンヌです。
ちょっと話を戻すと、1758年からこの建物は王室家具調度品保管所として使用されるようになり、1770年、ルイ15世の後継とマリー=アントワネットの婚礼イベントの会場に!このオーストラリアのお姫さまにとって、初めてのパリはここからはじまった訳です。
それから時が経ち、フランス革命から仏海軍がこの建物をじわじわと占拠。皮肉なことに1793年、このロテル・ドゥ・ラ・マリンヌでマリー=アントワネット処刑の調書に署名が、そして1848年にフランスにおける奴隷解放宣言もここで調印されたのです。
という訳で、ロテル・ドゥ・ラ・マリンヌは18世紀から19世紀初頭のフランスのライフスタイルのお宝揃い、パリのプチ・ヴェルサイユと呼んであげたい。バルコニーからのコンコルド広場を眺めれば、「私って国賓!」という束の間のピカピカ気分ですよ~
実際、歴代の大統領はこの見晴らしを外交に利用していたし、フランス革命200年祭もここで開催されたのに_ いつも間にか隠れた名所になってしまいました。
18世紀へのヴォワヤージュ
新ロテル・ドゥ・ラ・マリンヌでは、ハイテクマルチメディアを使いながら18~19世紀のライフスタイルに十分浸ることができます。
歴史的建造物改修の権威、ジョゼフ・アッカーとミッシェル・シャリエールの両氏よる徹底した時代考査に基づき、サロン、書斎、キッチン、ダイニングルーム、ベッドルームからバスルーム、舞踏会のギャラリーまで、当時を限りなく再現しています。
これまで数々の歴史的な建造物を蘇らせてきた両氏の努力と経験と見識、またそれを実現させた職人さんたちのサヴォワール・フェールがあってこそ、現代から18世紀にタイムスリップできるのです。
必見のテキスタイル
とにかく、ここは歴史と美の宝庫と言えるのですが、特にテキスタイルがすばらしい!
家具・調度品からカーテン、壁、ベッドルームからバスルームなどに使われていたテキスタイル、刺繍、モチーフなど、すべてについてそのオリジナルを追い求め、それを再現できるアトリエやメーカーを探し当てるという、想像を絶する労苦の賜物です。
18世紀のリネンのカーテンのカラーコーディネイト、壁の繊細な色、ああなんと美しいのでしょう。
たとえばこの壁に貼られたテキスタイル。19世紀初頭のオリジナルが奇跡的に見つかったものの、この手のブルーは劣化するのが早い。おまけに展示に向いていない。そこで職人がオリジナルと同じ生地を織り、筆でオリジナルのブルーに染めた_とミッシェル・シャリエール氏が説明してくれました。専門家たちでもオリジナルとコピーの見分けがつかなかったそう。
ダイニングルーム!
この食堂、あまりにも豪華すぎて、どこに目をやっていいのかわかりません。食べられないのですが、つい摘み取りたくなるような美味しそうないちごが描かれた壁紙も必見のひとつ。いちごを囲むブーケや小鳥たちのモチーフも同じものがひとつもない!テーブルには、18世紀のお食事スタイルがディスプレーされ、当時のワインボトルの形もこんなだったのね、とお勉強になりました。
暖炉にはブルーのすばらしいセーヴル焼き3点セットが飾られているのですが、これはずばりセーヴル美術館からの借り物。
焼き物だけでなく彫刻、絵画、装飾品などなど、ルーヴル美術館、パリ装飾美術館をはじめフランスの美術館からのレンタル多数。フランスの文化財がここに結集されています。
まだまだ続くよ ガストロノミー(美食)、AL THANIコレクション…
コンコルドの新散歩コース!ロテル・ドゥ・ラ・マリンヌの広ーい中庭は、ルーヴル美術館のピラミッドみたいに誰でも自由に通れます。
それだけでなく、ここにはあのラグジュアリーなル・カフェ・ラペルーズが出店。秋にはスターシェフのジャン=フランソワ・ピエージュのレストラン「ミモザ」がオープンします。そして同じ時期にはパリを拠点にする建築家田根剛さんが手掛けた、世界屈指のプライベートコレクショAL THANI/アル・タニがロテル・ドゥ・ラ・マリンヌ内に開設します。
ヴィクトル・ユゴーの家
Maison de Victor Hugo
6, Place des Vosges 75004 Paris
www.maisonsvictorhugo.paris.fr
親子3代続くパリっ子たちは、口を揃えて言うのです。
ヴォージュ広場_ それはパリで一番美しい広場だ、と。ここには、あの人が住んでいたアパルトマンがあるのですが_ ご存知でしたか?
ヴォージュ広場の一角に、あの『ああ無情』のヴィクトル・ユゴー(1802ー1885)の家/Maison de Victor Hugo「家/Maison メゾン」がリニューアルオープン。これを記念してヴィクトル・ユゴーのデッサン展が開かれています。
風景、建物、動物_ なんでも描いてしまうこの文豪の画家としての才能には驚くのみ。
さて、今回の18か月間に及ぶ修復工事では展示スペース、マルティメディア解説が加えられたのですが、どうしても注目してしまうのが、小鳥がさえずる緑と噴水の中庭。
都会を忘れてしまう静かなこのオアシスに、メゾン・ミュロの左岸に続く2つめのアドレスとなるカフェ・ミュロがオープンしました。
パティシエ、ファビアン・ルイヤールのクグロフをここでいただける!と食欲に先走りせず、英人文学者サミュエル・ジョンソン(1709ー1789)の言葉、「腹のことを考えない人は頭のことも考えない」を思いつつ、食と知が絡む時間を過ごしたいものです。
親亀の上に子亀か!
名所エッフェル塔にもうひとつの名所
エッフェル塔から直線コースで800メートル、そこに出現したのは_
グラン・パレ・エフェメール LE GRAND PALAIS EPHEMERE
エフェメール、とは束の間、という意味で、つまりグラン・パレ・エフェメールは永遠の建築物ではないのです。
セーヌ右岸にあるグラン・パレの大改修工事の間、そしてパリオリンピック・パラリンピック2024(パリ2024)が終わるまで、この「エフェメール」が存在します。
グラン・パレ同様、大規模な展覧会、ファッションイベント、そしてFIAC(コンテンポラリーアートトレードショー)、パリフォト、ル・ソー・エルメス(エルメス主催の馬術競技)、そしてもちろんシャネルのショーもここで開催。
パリ2024では、柔道とレスリングの会場となります。
それではグラン・パレの代役を演じるグラン・パレ・エフェメールのプロフィールをご紹介しましょう。
総面積は1万㎡。GLイヴェンツ(プルミエール・ヴィジョンとトラノイ・イヴェンツを所有する)がグラン・パレ・エフェメールのプロジェクトを譲受し、たった3か月間で完成させました。広大なホールは木材PEFC(森林認証プログラム)の木材で造られた44アーチで骨組みされ、見渡す限り柱は1本もありません。照明器具もリサイクル化、省エネルギー設計など各項目でエコレスポンシブルに取組んだ建物です。
もっと驚いてしまうのは、このグラン・パレ・エフェメール、なんとプレハブ工法なんですよ。5つのモジュール(分かりやすいようにABCDEと呼びますね)が、エッフェル塔がそびえるシャンドマース(公園で)組み合わされ、グラン・パレ・エフェメールになった。組立てはあっという間だったけど、解体もあっという間にできるそう。立つ鳥跡を濁さず_ これぞエフェメールの妙。
パリ2024終了後、例えば他の場所(フランス国外も想定内)で、ABCDEを全部使わなくても、C+D、とか、B+Eの組合せで、エフェメールな建物を再現するこも視野にあるようです。なんかレゴブロックみたいですね。
今の時代に適応したこんなすばらしい設計をしたのは、仏人建築家ジャン=ミッシェル・ヴィルモット/Jean-Michel Wilmotte(1948ー)。
ルーヴル美術館、ライクスムゼーウム(アムステルダム国立美術館)の改装、グーグルのロンドン社屋、パリ・ルテシアホテル、世界最大のスタートアップキャンパス・パリStation Fなどが彼の代表作。そしてつい先日再開業した百貨店ラ・サマリテーヌのロフトレストランもヴィルモットが手掛けています。
さて、このグラン・パレ・エフェメール一番乗りのファッションイベントがプルミエール・ヴィジョンのファッション・ランデヴー展。タイトル通り、ファッションのこのランデヴー(会合)がポストコロナのすばらしいルネサンスになることを祈りつつ、それではまた、アビアント!
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。