突然ですが、「フランス人は誰だ?」のジョークにおつきあいください。
それではご一緒に。
ある国のホテルでの朝食シーンを想像しましょう。そこには欧州からの旅行客がたくさんいます。(史上最大規模のフェルメール展が開催されているアムステルダム国立美術館界隈のホテルでの光景が想像しやすいかも。欧州各国からのツーリストでいっぱいだろうな。)
さあ、その朝食の光景からフランス人ツーリストを当てるには?
カフェ(珈琲)にパンを浸しながら食べている人たちが、そう、フランス人!
どうして?どうしてなのか、フランス人はヴィエワズリー(菓子パン系)やバゲット(フランスパン)やビスコット(ラスク)をカフェやテ(お茶)に突っ込んで食べる。
あのパティシエ、セドリック・グロレが、ヴィエノワズリーを「どぶっ」と沈めてから美味しそうに食べている姿をInstagramで見た時は、あれほど手間をかけてパリパリに焼いたのに…、とつい途方に暮れてしまいました。
さて、こんなジョークが言えるほど観光が復活したわけですが、パンデミックで足止めされていた美術品も動き出し、延期を重ねていた企画展が続々(東京ではルーヴル美術館が愛を描いている!)、現代アートギャラリーもオープンしたりとインターナショナルな鑑賞盛り沢山でパリにいながら周遊アートツアーを体験しているような、そんな気分になりがちです。
ヴェネツィアに行かなくったって_
CA’D’ORO
Collection AL THANI
Hôtel de la marine
カドーロ展
コレクション アル・タニ
オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ
https://www.thealthanicollection.com
Instagram / ai.thani.collection
コンコルド広場の目の前に、2021年夏にオープンしたオテル・ドゥ・ラ・マリーヌ。パリのど真ん中にあるプチ・ヴェルサイユ宮殿と個人的に呼んでます。詳しくはこちらで。
パリ ランドマークのルネサンス(松井孝予)
この新しいランドマークの中に、カタールのアル・タニコレクションがある、というこはあまり知られていないかもしれません。入り口は別になっているし。いわば秘宝の美術館で、内装デザインは田根剛さんが手掛けました。常設展の空間は、ハッとさせされます。
ここでは貴重なアル・タニコレクションに加え、企画展も開催されています。今、鑑賞できるのがカドロ展。ヴェネツィアのカナル・グランデに面しているパラッツォ・サンタ・ソフィア / Palazzo Santa Sofia、その昔、外壁に金箔が塗られていたことから黄金の館(カドーロ)と呼ばれているそうな。そのカドロが現在改装中という理由から、同館の所蔵品がアル・タニコレクションで展示されています。
同展での目玉はなんと言ってもアンドレア・マンテーニャ Andrea Montegna (1431ー1506)のテンペラ画「聖セバスティアヌス」。この絵画がカドーロから外出するのはこれが初めて。マンテーニャは3枚の「聖セバスティアヌス」を描いています。ウィーンの美術史美術館が所蔵する「聖セバスティアヌス」が最も古く(おそらく1456ー1457)、次にルーヴル美術館にある作品(1480年)、そしてカドーロ内のフランケッティ美術館(1490年説、1506年説、その他説もあり)。
3枚とも怖い絵なのですが、カドーロの「聖セバスティアヌス」は他の2枚と比較すると、顔が右向きで口を開けた表情のせいか、体を硬直させなくても見ることができました。それにしても2枚の「聖セバスティアヌス」が同じ界隈にあるなんて、歴史的なことかもしれません。でも、その偶然は5月7日に最終日を迎えてしまうのですが、6月30日からはヴィクトリア&アルバート博物館から中世の傑作70点が、パリ初、ここアル・タニで展示されます(TRESORS MEDIEVAUX DU VICTORIA AND ALBERT MUSEUM)。ロンドンに行かなくったって_
MUSEE PICASSO PARIS
FAITH RINGGOLD
Black is beautiful
ピカソ美術館
フェイス・リングゴールド
Black is beautiful
ニューミュージアム(ニューヨーク)との協業
7月2日まで
フェイス・リングゴールド。ピカソ美術館でこの展覧会を見るまで、この91歳を迎えた今でも創作活動を続けているアフリカ系米人女性アーティスト、児童文学作家を知りませんでした。彼女は表現方法は版画に始まり、絵画、ファッションデザイナーだった母との共作ではじまるキルティングやソフト・スカルプチャーなど様々。初体験のリングゴールドの作品には、彼女の創造性を遥かに超えた、時代や社会をよくしようと希望を持って逆境にあても前進する「自分」があって、ああ、書ききれない、とにかく感慨無量でした。
キルティングにアクリルで描いた Le Café des Artistes アーティストたちのカフェ。この絵の中で、リングゴールドの分身ウィリア・マリー・サイモンは、ゴーギャンやロートレックやユトリロやアフリカ人アーティストたちがサンジェルマンのカフェで、彼らを目の前にアートと政治における有色の女性のマニフェストを読み上げています。Picasso’s Studio では、『アヴィニヨンの娘たち』製作中のピカソの姿が、同じくキルティングに。
CELEBRATION PICASSO
さてパブロ・ピカソ(1881-1973)没後50周年を祝い、フランスとスペインが中心となり「セレブレーションピカソ」としてワールドワイドな企画展やイベントが開催されています。ここピカソ美術館ではポール・スミスがアーティスティックディレクターにポール・スミスを迎え、ピカソの代表作がカラフルに演出されています。
そしてアニバーサリーグッズも!『アクロバット』のポスター、トートバック、マグなどバラエティーに富んだライン、そしてポール・スミスバージョンのトートバックやノートも揃っています。
ピカソ美術館のブックショップとboutiquesdemusee.frでどうぞ。
Galerie Lelong
Mildred Thompson
L’Appel de la lumière
ギャルリー ルロン&Co.
ミルドレッド・トンプソン展
L’appel de la lumière
https://www.galerie-lelong.com/en/
ピカソ美術館でのフェイス・リングゴールドとの出会いは、ギャルリー ルロン&Co. Galerie Lelong & Co.でのアフリカ系米国人抽象画家、ミルドレッド・トンプソン Mildred Thompson (1936-2003)展へと続きます。数年前から米国各地の美術館で、トンプソンの展覧会が開催されてきました。実はこのご紹介している展覧会、5月中旬からはじまるので、まだ見ていません。彼女の作品は、西アフリカのテキスタイルとイスラム建築と関連があると批評されているのですが、作品の画像を見る限りその指摘がよくわからない。だから本物を見て体験したいですね。今回はトンプソンがフランスとドイツに滞在していた60〜80年代に制作された大気をイメージするようなコンセプチュアルな作品が展示されるということで、光のアヴァンチュールが待ち遠しいな。
ところでこのギャルリー(英語で言うギャラリー)のアーティストリストですが、エテル・アドナン、デヴィッド・ホックニー、ジャン・ミロをはじめ、スゴイ! アートファンにとって外すことのできないアドレスです。ちなみにニューヨークにもあります。
White Cube Paris
Al Held
Watercolours
ホワイト・キューブ・パリ
アル・ヘルド
ウォーターカラーズ
それでは最後に新しいギャラリー、White Cube Paris ホワイトキューブ・パリ。
ロンドン、香港、ニューヨーク、パルムビビーチに続き、シャンゼリゼ界隈のギャラリー街にこの春、いよいよオープンしました。このギャラリーのアーティストリスト、(いい意味で)震えてしまう方、多いと思います。Gilbert & George, David Hammons, Damien Hirst, Anselm Kiefer, Isamu Noguchi, Danh Vo …
そして現在開催されているのが米国人アーティスト、アル・ヘルドAl Held(1928ー2005)の展覧会。抽象表現主義の代表的な画家で、ハードエッジペイント(ひとことで言ってしまえば、色彩豊かな幾何学モチーフ)知られているのですが。これを見るまで、わたしは知りませんでした。抽象表現主義について、何か書けるように、まずは作品を見るという修行が、わたしには必要です。
それではみなさん、アビアント(またね)!
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。