若きクリエイターへ! イエール国際フェスティバル(松井孝予)

2024/01/18 06:00 更新


FESTIVAL INTERNATIONAL-HYERES

若い才能への願いを込めて、2024年のレポートplusをスタートします。昨年、とても心に響いた取材のひとつに、イエール国際フェスティバル(イエール)が挙げられます。それはなぜか?その理由は、若きクリエイターに賞と奨励金を授与するから、だけではありません。

≫≫前回までのレポートはこちらから

ここでちょっと説明を加えると、このフェスティバルは仏政府の支援を受け、南仏のコートダジュールの絶景を望むイエール市と、この地域の文化的施設で歴史的建造物に指定されているヴィラ・ノアイユが主催し、パートナーにはシャネルグループを筆頭に、プルミエール・ヴィジョン(PV)、ヨーロッパリネンとヘンプのための同盟(旧欧州麻連盟/CELC)、エルメス、ケリング 、LVMH、アメリカン・ヴィンテージらフランスを代表する企業が名を連ねます。

会場のヴィラ・ノアイユから眺め

フェスティバル会期中には若手を対象にモード、写真、アクセサリーのコンペティションが行われます。特にモードコンペティションはメインの中のメインプログラムで、「新人の登竜門」というサブタイトルが付けられています。

というわけで、話を戻します。イエールのモードコンペティションで感動を覚えるのは、若いクリエイターに賞を与えるだけでなく、10月に開かれるコンペティションの最終選考のコレクション制作までの道のりを、パートナー企業が10人のファイナリストと一体となり指導し育てていくバックグラウンドがあるからなのです。

グランプリ PV賞
PRIX PREMIERE VISION

同コンペティションのグランプリにあたるのPV賞。見ての通り、PVのグランプリだけにファイナリストたちは、PVパリ2月展で最終選考の素材を選びます。

これに先駆けてPVは出展社からイエール支援企業を募り、その中からPVのファッションチームが素材を分け、ファイナリストへ提案。ファイナリストは素材についてPV担当者らから学び、選ぶだけでなく、企業によっては素材開発にも協力してくれる可能性があるのです。

昨年の第38回同フェスティバルで見事PV賞を獲得したベルギーのイゴール・デリックさんは、PV出展社のLabels&Things,L&TCaps,Libeco,Beppetex,Rifra Nastriの協力の下、ユニセックスコレクション「イエッサー/Yessise 」を完成。学生時代のホテルの受付係のバイト体験を基に黒子の仕事をコンセプトにした作品でした。

その前年、第37回でPV賞に輝いたジェニー・ヒトマン(フィンランド)はイタリアのメテックス社と素材を開発。昨年、同フェスティバル会場でメテックス社長夫妻にお会いした。「ファイナリストたちとの協業から自分たちにないアイディアや創造力をもらえる。これが会社の開発に繋がるんですよ」とお話してくださった。このご夫妻は毎年、イエールまで足を運びコンペティションを見るのがよろこびだという。イエールはサプライヤーにとって、「クリエイション外交の場」と頷いてしまったのでした。

ファイナリストたちのショーで
イゴールさんの1ルック
Ⓒ Arnel de la Gente / Catwalkpictures
授賞式
イゴールさんとジル・ラスボルドPVゼネラルマネージャー
© Luc Bertrand

ファイナリストたちのコレクション

イエールのコンペティションが毎年レベルアップしているのは、関係者の誰もが認めるよろこばしき事実であり、ファッション産業全体に希望を与えてくれる。上記のイゴールさんは、PV賞だけでなく、市民の投票によるイエール賞、そしてシャネルのメティエダール賞と、コンペティション初の三冠に輝いた。

この快挙に至ったコレクションについて、PVファッション部門のディレクター、デゾリナ・ズーターさんはこのようにコメントしてくれました。「イゴールのコレクションはコンセプトがとても強くシンプルで誰もが理解できます。彼の作品には知性とユーモアが同居しています。そして真の技術で制作している。様々な要素がひとつになる。それが高いをクオリティーを生み出します。彼の受賞作をPVパリ2月展で披露できるのがとてもうれしい」

デゾリナさんと

惜しくもPV賞を逃したものの、第38回のファイナリストたちのレベルは高く、「誰がグランプを獲得してもおかしくない」と最終選考のプレゼンテーションで囁かれていました。

PVのインターナショナルファッション製品部門チーフ、ルーシー・ジャノさんに、今回のファイナリストたちの傾向について聞いてみたところ_「10人のファイナリストすべてのコレクション、凝ったテクニックとヴォリュームとパターンを研究したモデリスム(型作り)で本当にレベルが高いと思いました。服のコンストラクションに知性が感じられました。前年は素材で服を語ろうとしていた、今回は熟考したテーラーリングとクチュールが全体的な傾向と言えます。そしてファイナリストそれぞれがエンゲージメントを持っていた。それはマニフェストとは違っていたし、暴力的でもありません。彼らは社会、環境、動物、人間、自由への思索をコレクションで表現していまし、社会における自分のポジションを明確に示していました」とコンペティションについて熱く語ってくれたのでした。

ルーシーさん
プレゼンテーションで

イエール+イズム=若手を育てよう!

イエール会期中にあっという間に流行語にもなったP V受賞作「イエッサー」。セレブに着せたい服ではなく、普段忘れられているホテルのレセプショニストにテーラリングを凝らしたコレクションを制作したイゴールさん。そしてファイナリストたちは賞獲得の有無に関係なく、「こんなすばらしい体験はここでしか得ることができない」と最終選考のコレクションの制作環境について語り、自身の成長に自信を持ち、将来へ希望を抱きイエールから出発する。

素材からコンペティションでのショーのスタッフにいたるまで一流のファッション産業が若い才能を育てる。これをイエールイズムと呼んでみたいとわたしは勝手に思うのです。イエール/Hyères とイズム/ism で造語です。コンペティションの会場の雰囲気を言葉にしてみました。

1月末には第39回イエールのファイナリストと審査委員長が発表になります。今年こそ日本人のクリエイターがエントリーされることを祈ります。そしてPVパリ2月展は、イゴールさんの「イェッサー」に再会するのがとても楽しみ!

それではまた、アビアント!

≫≫前回までのレポートはこちらから

松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。



この記事に関連する記事