美術館で見るエルメス(松井孝予)

2017/11/30 17:50 更新


ⒸBENOIT TEILLET

エルメスのウィンドーディスプレー展

「美しいものは信頼から生まれる」。

いい言葉だな、と思いました。

グランパレで開催の展覧会「エルメス 羽ばたいて_ レイラ・マンシャリの世界」のトークイベント(というよりは「お話の時間」)で、この心に響いてくる真珠のような一言に出会いました。

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この展覧会では1978~2013年までエルメス本店のウィンドーディスプレーディレクターを務めたレイラさんの代表作8点が、新しさを加えて再現されています。

単なる回顧展ではありません。レイラ・マンシャリは、ここであらためて私たちを驚嘆させるのですから。

内覧会で開かれたこのトークイベントでは、エルメス会長のアクセル・デュマ氏と同アーティスティックディレクターのピエール=アレクシィ・デュマ氏がレイラさんを囲み、逸話を交えながら彼女の世界を語り合います。その会話のなかで、アクセル・デュマ氏は「美しいものは信頼から生まれる」と。

レイラさんがディスプレーを完成させるまで、誰もチェックしたいと言ったことがなかったそうです。年に4回、ウィンドーで出会う美しさや驚きは、レイラさんとエルメスの信頼関係から生まれたのですね。


「あなたの夢を描いて」

レイラ・マンシャリとエルメス

レイラさんはチュニジア生まれ。母国で造形美術を学び渡仏。

パリのエコール・デ・ボーザール(国立高等美術学校)を61年に卒業後、「ギラロッシュ」のミューズとなるのですが、両親から定職を見つけなさいと言われ、デッサンを持ってフォブール・サントノーレ24番地、エルメス本店の扉を叩きます。

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当時ウィンドーディスプレーのディレクターだったアニー・ボーメルさんはレイラさんの作品を見て、「あなたの夢を描いて」と言いました。こうしてレイラさんはエルメスでの1歩を踏み出したのです。

レイラさんの夢は、ファンタジー、リベラル、大胆、ミステリー、オリエンタルカラー… 爛々としています。

「大きなウィンドーは物語を語るひとつのテアトル(劇場)。テキストも動きも時もなく、テアトルを作るのはとても難しい。イラストレーターであり、画家であり、作曲家であり、演出家であり、1度に何役も完璧にこなさなければ」と、レイラさんはウィンドーへの「賭け」を語ります。

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グランパレには、レイラさんの夢の世界を表現した8つの「テアトル」がインスタレーションされています。

ゴーギャンや、アーヴィン・ペンの回顧展が開催中のプレスティージな美術館、グランパレ。

「この特別な場所でレイラへのオマージュを捧げ、沢山の方々にエルメスのウィンドーディスプレーを鑑賞していただきたい」と、ピエール=アレクシィ・デュマ氏はこの展覧会への思いを話す。入場は無料。会期が短いのが唯一残念です。

日本でもレイラのいくつもの世界を鑑賞できる日がくることを祈りつつ。



インフォメーション

" HERMES  A TIRE -D'AIL "

Grand Palais

12月3日まで





松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。




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