オールフォーワン(東京、木原彰夫代表)は1年前に閉店した東京・千駄木の伝統工芸をベースにしたショップ「ツギキ」を近場の根津に移転し6月6日に再開した。小売業の難しさから一度は断念したショップを復活させたのは、「コロナ禍で失業した仲間をほっとけなかったから」というのが最大の理由だ。もちろん、「人と人が出会うリアルな路面店に今まで以上の可能性を感じている」ことも復活を後押しした。
(大竹清臣)
◇従来型のモデル転換
ツギキは15年にアウトドアカジュアルブランドから独立した木原代表が同年11月にオープンした。伝統工芸など和のカルチャーとアウトドアを融合したショップだった。象徴する商品は、富山県高岡市の伝統工芸士の銅や真鍮(しんちゅう)などへの着色技術を活用して美しく仕上げたキャンプ用シェラカップ。木原代表は「自分が生まれ育った富山県の自然や文化などの魅力を伝えたい」との思いで地方創生のプロデュース事業にも力を入れている。
再開した新店では富山の伝統工芸も訴求するが、それ以上に「谷根千(谷中・根津・千駄木の下町)エリアに事務所を構えて5年間で知り合った街の仲間たちにフォーカスした店作りを徹底する。コロナ禍で失業してしまった近所の行きつけの店のバーテンダー、難波紀一郎氏を店長に起用するのがショップ復活の一番の目的でもあった。そのため、物件は5月の大型連休明けに即断即決。根津神社参道沿いの築百年以上の建物。以前は美容室だったことから、ショップ営業の後、夕方からは知人の美容師によるヘアサロンが主役に変わる。また、オープニングには池之端のアンティーク時計店「ウォッチボックス」の期間限定コーナーも設ける。ほかにも、木原代表の友人のイラストレーター、NAGAの作品も展示・販売する。従来型のビジネスモデルからの転換を強く意識しており、「これからは街に根差しつつ、自分の個性も表現したい」としている。
◇対面接客の楽しさを
内装も街の仲間に手伝ってもらった。什器には昔の薬棚を使い、小物を飾り付け、押し入れだったスペースにランタンなどキャンプグッズを並べている。木原代表がデザインするオリジナルブランド「シュガーグライダー」のポケットTシャツをはじめ、同社が扱うチャイナと和のディテールが特徴のカジュアルウェア「ウー」、台湾の竹細工によるキャンプグッズ「フィールグッド」、シェラカップ同様に富山の伝統工芸の技術を生かした漆塗りのペグ型の箸などのキャンプグッズも販売する。
そのほか、アウトドア仲間のツノカワファームのだるま型クッションや「ハロコモディティー」の帽子、「ベルーフ」のバッグなどをセレクトしている。「消費者はコロナ禍での外出自粛からECの物足りなさを実感したはず。対面で人に接客される楽しさに気づき始めた」という。
イベントプロデュースやブランドのデザインなどコンサルティング活動も多い木原代表は出身地の高岡市に別会社、アルチザン933を設立し、地域活性化のイベントなどにも力を入れている。6月に古民家を買い取り民宿もスタートしただけでなく、今後、キャンプ場の運営にも乗り出すなど新たな事業にもチャレンジする計画だ。